見出し画像

“音楽の力“を目撃する〜映画「サマー・オブ・ソウル」(その3)

承前

フィフス・ディメンションは、音楽の力で白人と黒人をつないだ。

一方で、黒人の地位向上を訴えたミュージシャンや、後に大統領候補にもなるジェシー・ジャクソンのような人も多く登場する。皆が言葉や音楽で何かを訴えている。

スティービー・ワンダーはキャリアの岐路にあった。12歳でモータウンからデビューし、間もなくビルボード1位を獲得。天才少年はこの年に19歳になっており、社会的な問題に向いあうべく、音楽活動を変化させようとしていた。

また、既に強烈な存在感で社会問題を歌っていた。ニーナ・シモンである。司会者は、彼女を「貧困層が抱える問題と苦難を歌う 黒人の問題に立ち向かうソウル・シンガー」と紹介する。

当時の観客が“アフリカの女王”と表現した姿で登場したニーナ・シモンは、力強くピアノを叩き、“バックラッシュ・ブルース”という強烈なプロテスト・ソングを歌う。(1976年モントルー・ジャズ・フェスティバル

1回目で言及したCharlaynel Hunter-Gaultは、ジョージア大学に入学し、女子学生寮に入る。彼女の部屋は1階だったが、白人学生は2階。2階に住む学生達は、Charlaynel Hunter-Gaultの部屋の上で床を叩き、嫌がらせをする。そんな時、彼女はニーナ・シモンの歌を聴いて立ち向かっていた。

ニーナと並んで、存在感を示しているのが、ウッドストックにも登場した、スライ&ファミリー・ストーンである。

彼らの音楽は“新しい”。その理由の一つは、今時の言葉で表すと“ダイバーシティ”だろう。黒人のスライをリーダとしつつ、チームは女性もいる、そして白人もいる。ドラマーは、白人のグレッグ・エリコである。また、女性メンバーのシンシア・ロビンソンはトランペットを吹く。観客の女性が、「女性がトランペットを吹いていて誇らしかった」と語る。そんな時代である。

スライは、彼らの代表曲の一つ“エブリデイ・ピープル(Everyday People)”を唄う。人種差別を超えて、全ての人は同じ・平等であることを、“I am everyday people(俺は普通の人間さ)”と歌い上げる。

「サマー・オブ・ソウル」、さらっと紹介するつもりが、思いのほか色々書いてしまった。

全編を通じて心が動かされるのは、観衆の表情である。当たり前のことだが、音楽は演奏する出し手と、それを聴く受け手の双方があってはじめて成立する。そして、それが上手く噛み合うと、何かが生み出される。それが、”音楽の力”なのだろうと思う。

この映画は、もっと前に世に出るベキだったかもしれないが、今登場したことにも、何らかの意味があるようにも感じた



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?