多彩な芸を堪能した一夜〜神田伯山主任の新宿末廣亭7月下席夜の部(その2)
(承前)
中入り後、珍しい人が高座に上がった。実況アナウンサーの清野茂樹。スポーツを中心にさまざまな実況中継を行なっているが、神田伯山と新日本プロレスについてコラボするなど親交があり、伯山のラジオでもその名が取り上げられた。こうした関係から、スペシャル・ゲストとして新宿末廣亭に出演することになった。お客様から、実況中継で取り上げてもらいたい有名人の名前をもらい、その場で架空実況中継を行うという、珍しい“芸“を披露した。
続いては柳亭小痴楽、泥棒の噺と「だくだく」に入る。いかにも落語という馬鹿馬鹿しい話だが、小痴楽という一見噺家風でない人が、ピシッと演じるところが気持ち良い。
柳家蝠丸、69歳で鯉昇の一つ下だと話していた。ふと「誰の弟子だっけ?」と思い、終演後確認したら、先代(十代目)桂文治(前名:伸治)だった。では「なぜ柳家?」と思ったら、師匠・文治の父親が初代の柳家蝠丸(師匠は三代目柳家小さん)、文治は父の名を継がせたというわけだ。
なお、文治は太平洋戦争に召集され、戦後に落語家になるが、すでに父・蝠丸は他界しており、桂小文治に入門することになる。
そんな蝠丸は、「嘘つきの話を演ります」と言って、「弥次郎」へ。続いて、膝がわりの奇術・北見伸。昨日書いた通り、最前列で見ていたが、カラクリはさっぱり見えない。プロの芸である。
主任の神田伯山、この芝居は夏の怪談話特集で、ネタ出し。この日の演目は「お紺殺し」。佐野次郎左衛門という豪商が、吉原の遊女にふられ、彼女のみならず、多くの人を殺めた「吉原百人斬り」事件。使った名刀が“籠釣瓶“、この事件をもとに歌舞伎「籠釣瓶花街酔醒」(かごつるべさとのえいざめ)の前日談が「お紺殺し」。
次郎左衛門の父、次郎兵衛と彼の過去を知るかつての女・お紺とのお話。伯山はこれでもかと迫力を全面に出し、グイグイ聴き手に迫ってくる。怪談話のお決まり、寄席の照明も暗くなりクライマックスへと。。。
「戸田の河原はいまだに雪が降り続いていたと申します。(三味線🎶)夢から醒めたところで、ご例刻でございます」
萬橘師匠の音頭、三本締めで大団円
約4時間の興行、バラエティに富んだ内容で客席を楽しませ、最後は伯山でしめる。寄席が毎日こうであれば、客足が遠のくことはないだろう