「妊娠できない不妊治療」が日本で圧倒的に多い理由

国際生殖補助医療監視委員会(ICMART)が28ヶ国における『体外受精の実施件数』と『体外受精による出産率』のレポートを発表しました。

当レポートでは、体外受精の実施件数において日本が一番多いのに対して、体外受精による出産率が最低レベルという驚くべきデータが公開されています。

これには不妊を加速させる日本のガラパゴス化した不妊治療の実態が垣間見えるのです。

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日本の不妊治療がなぜうまくいかないのか

「できるだけ自然にしているのが良い」という日本人の気質が影響しているようです。これは患者サイドだけではなく、医療従事者サイドでも顕著です。

「いつかは妊娠する」と思い、治療の開始年齢が遅くなる傾向があるとともに、(排卵誘発剤などの)薬の使用はできるだけ避けていることも一因です。

自然療法や薬を控えた治療に時間をかけすぎて、いざ本格的な不妊治療に切り替えた時には卵子の数が少なすぎて時期を逸してしまったり、 なかなか妊娠しないため心身ともに疲弊してしまうのです。また、治療の長期化は経済的にも大きな負担を強います。

日本の常識は世界の非常識

日本: 薬を使わずに体にやさしい自然周期で進めましょう
英国: 薬を使わない自然周期の体外受精は出産率が低いため、国が定める不妊治療ガイドラインにおいて「医師は、自然周期は提案してはいけない」と明記しインターネットで公開

上記のように、日本は自然周期を勧める傾向があるのに対して、英国では明確にガイドラインを定めて、自然周期を提案してはいけないと断言しています。

「日本には、学会が作った治療法の統一ガイドラインは存在しない。その結果、日本の不妊治療は、専門施設であっても治療方針がばらばらで、妊娠率にも差があることは専門家の間でよく知られている事実だ。それゆえ患者は、どの医者が正しいことを言っているのか確信が持てず、転院を繰り返すことが多い。もしくは、それもできず、不安なまま自分に合わない治療を繰り返してしまう人もいる。
そうしているうちに、貴重な時間やおカネをムダにしてしまうのだ。」
--- 日本の不妊治療が妊娠しにくい根本的な理由 / 河合 蘭 (東洋経済ONLINE)

ガイドラインに基づき、データドリブンな「使える」不妊治療への移行、そしてディスクロージャー(グラスノスチ)が急務といえます。

高度な治療方法よりも前に、正しいリテラシーこそが日本には求められています。

不妊治療とは、何よりも「限られた時間」と「限られたお金」をどう効率的に使うか、なのです。

なぜ排卵誘発剤か

薬なし自然周期のみのリスク

・卵巣の中で排卵できる卵子はひとつのみ。
・採卵したとしても、子宮に戻す前に成長が止まったり、無事に子宮に戻したとしても着床して出産に至る数は少ない。卵子1個あたりの出産率は、若い人でも4分の1程度。
・薬は閉経を早める、薬は有害という科学的根拠がない都市伝説を信じている場合が少なくない。
・出産率が低いため、何回も採卵しなければならず、体への負担と時間的・金銭的コストがかかる

自然周期で体への負担を抑えようとして、かえって体への負担がかかってしまいます。これが日本の不妊治療が抱えている根幹的な課題といえるでしょう。

排卵誘発剤を使用した場合

・若い人なら7~8個、多い場合は数十個もの卵子を一度に採卵できるため、1回の採卵で出産可能な卵子が採れる確率が向上。
・海外では1人の子どもが体外受精で誕生するには平均25.1個(38歳未満の女性に限っても6~16個)の卵子を採ることが必要とされている。

排卵誘発剤を活用することで出産率を高め、時間的・金銭的コストを抑えることができるのです。欧米では排卵誘発剤を使用した治療が一般的になっています。

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