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謙虚で誠実な地元店との架け橋になる--AGEバルに参加して思ったこと

小学校6年生。営団地下鉄(今の東京メトロ)が夏のイベントで行っていたスタンプラリーに参加した。友達と3人。一日乗車券の付いたスタンプ帳を片手に各駅に置いてあるスタンプを夢中で集めた。車掌さんに集めたスタンプを見せたら、何かしらのリアクションをしてくれた。小さな冒険の中で、ちょっとした人との出会いが、何よりもの感動であることを知った。今でも心に残る原体験だ。

あれから、30年弱。上尾に引っ越して1年が経った。仕事帰りに上尾駅でAGEバルの存在を知った。コンコースで市の職員が前売券を販売していたからだ。300円(期間中は400円)でパスポートを購入する。パスポートを提示すれば、1000円の特別メニュー(バルメニュー)や商品が提供される。1店舗につき1回、パスポートにスタンプを押してくれる。スタンプが10個貯まれば、プレゼントの応募権利が与えられる。

AGEバルに参加するのは、飲食店やお菓子屋さん61店舗。チェーン店ではなく地元に根ざした個人店がほとんどだ。昭和感漂う店構え。入店に二の足を踏んでしまう店舗が結構あった。勇気を振り絞って戸を開けると、シャイなマスターや女将さんが出迎えてくれた。「一見客にはハードル高かったか」。なんとも言えない緊張感が漂う。

その緊張感をパスポートが氷解してくれた。

「はいバルメニューですね」と。その一言で緊張感は、“入国許可”されたような安心感に変わった。特別メニューをいただき、帰り際にスタンプを押してもらう。最初は探り探りだった店員さんとも、「あの店はおすすめですよ」「もうこんなにスタンプが集まったんですね!」と会話が弾むことがあった。

小学6年生の原体験がよみがえり、夢中でスタンプを集めたらスタンプ枠は10日で全て埋まった。おかわりで、パスポートをもう一枚購入した。また新たな店を開拓しようと思う。

今回、AGEバルに参加して思ったことが2つある。1つ目は地元には美味しい個人店が多いこと。個人店はチェーン店のように上手くいかなければ撤退というわけにはいかない。地域の人に愛され続けるために誠実に味を守っている。2つ目は謙虚な店が多いことだ。大規模チェーン店は広告を使って認知をはかり、SNSを駆使し、店構えを時流に合わせ、顧客を吸い寄せる。個人店にはその力はない。めちゃくちゃ良いものを提供しているのに、どことなく自信なく感じる。

だからこそ、誰かが光を当てる必要がある。それが広告の役割であり、観光の役割だ。広告とは「広く告知すること」。観光とは「観(み)て光を照らすこと」。この2つが、地域社会に切に求められているのだと、実感した。

そのためには、派手なキャンペーンも大事だけど、こういう地道なイベントを積み重ねて着実に地元飲食店のファンを作っていくことだ。

そして、このイベントの特徴は地元民が主な対象だと言うこと。外から客を呼び込む前に、リピーターになり得る地元民に地元の知らない魅力を知ってもらうことの大切さ。地元民がファンとなれば、やがて彼ら彼女らが仲介者として、外から人を連れてくる。

しかし、それはとてもとても面倒くさいことだ。参加店を集める、連番のパスポートを印刷する、ガイドブックを作る、駅のコンコースで仕事帰りの市民に前売り券を販売する、効果もじわじわだし、どれも面倒くさい。

でも、この面倒くさい仕事をミルフィーユのように積み重ねた体積が、その街の力なのだと思った。これは、企業でも学校でも、あらゆる組織に言えることではないか。

ああ、明日からまた仕事。面倒くさい(笑)

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