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直葬(火葬儀)・樹木葬という昨今流行の弔い


母が亡くなった。
 
かねてから「通夜・告別式は必要なし」「戒名も位牌も墓もいらない」と言っていた希望どおりに母を弔うことになった。昨今そう希望する人が多いと聞くので備忘録として書いてみた。



1.葬儀社・火葬式選択


深夜3時半、妹から「母が亡くなった」という連絡が入る。すぐに飛行機のチケットを取った。その日の午後着の便を予約し、葬儀社決定までは妹が担当。到着時にはすでに母は葬儀社に移動し「火葬式」をお願いすることになっていた。
 
当初考えていた一番安価な火葬式のプラン156,000円をしみじみ見て「違うな」と思う。WEBサイトには書かれてなかったが、火葬式にも松・竹・梅と3つのプランがあった。
 
梅(一番安い)費用の内訳は 搬送(病院から葬儀社まで) 棺、骨壷、ドライアイス、専属スタッフ一名、霊柩車、遺体安置料(一日)である。通夜(つまり夜間の付きそい)はなし。安いだけあり棺がただの木箱で花もない。なんかやっぱり花は必要な気がするよね。故人はまったく気にしない(あとは燃えてしまうだけだから)だろうが、わたしが気になった。

結果、装飾模様が彫り込まれている棺と花が加わるひとつ上のプラン(25万円)を選択した。
 
すでに葬儀社の小部屋(火葬式専用小部屋のよう)には死に装束着た母がふとんに寝かされていた。今から考えるとプランが決定していなかったから祭壇が作れなくてふとんに寝ていたのかも、と思うが、ふとんに寝ているせいかまるで生きているような顔をしていた。今まで何度も告別式や通夜に出席したが、ここまで生きてる風情の人の顔見たことないなとぼんやり思う。
 
生前に「位牌も戒名もいらないって言ってるけどお坊さんにお経をあげてもらわなくていいの?」と聞くのを忘れており、なんとなく般若心経(真言宗だから)をSpotifyで流してはみたが、途中に明るい声のCMが入るしかえって罰当たりな気がして数回流してやめてしまった。母がどうしてほしかったのかは永遠の謎である。
 
告別式も通夜もないけど、祭壇ができたらなんとなく葬儀っぽい感じになった。長年の母の友人が訪れてくださり小学校からの数名の仲良しグループに連絡してくれたと言う。83歳で仲良しの友達がまだ何人もいるっていいなと思う。20時までいてホテルに戻った。
 
念のため「誰かが亡くなったときにすることリスト」を出力して持っていったのだが、結局全然使わなかった。「死亡届提出となにかに使うので数枚コピーしておきましょう」は葬儀社の人がしてくれていた。その他の手続きはまたの機会に書くことにする。

2.出棺→火葬


11時半に出棺、火葬場へ移動という予定だったので、10時ごろ葬儀社に到着。前日に「棺に故人の好きだったものを入れるといいですよ」と担当の方に聞き、何が好きだったのか全然思いつかない。ビールかなあ、ビールじゃ燃えないもんねえ、なんだろう? と妹と相談し、とりあえず昔好きだと聞いたことがあるカズノコを入れた。祭壇の花を棺に入れるのは通常の告別式と同じだ。ちょっとだけうるっとしたが涙は出なかった。花に囲まれた母はしあわせそうに見えた。
 
火葬場に到着し、そういえば火葬場にも遺体を焼く前に入る小部屋に遺影を置くところがあって(つまり祭壇)そこで線香を上げてお経を読んでもらうんだったと思い出したが、すでに遅い。ただ手を合わせ、このあとも2週間ほど「お経なくてもよかったのかなあ」とくよくよ考えることになる。
 
火葬が終わるまでの待ち時間に、前月に見学に行っていた樹木葬のメモリーパークに連絡を入れ、翌々日に契約に行くことにした。納骨の日程は、なんとなく骨になってすぐに地面に埋められるのは嫌かもなと思って翌週にした。葬儀に花がいるとか、骨になっても少しの間娘といっしょにいたいのではとか、合理的ではない感情をもとに判断してしまったが、人間ってそんなもんなのねと不思議に思う。


3.樹木葬契約→納骨


芝生の下にプラスチックの筒が入っていてそこに袋に入れた骨を収める。筒にはふたがあり、間違わないよう名前が印刷されている。誰がどこに入っているのかは、収められている人のネームプレートが配置されることでわかるようになっていて、この一区画に9軒分入るらしい。


樹木葬と聞くと骨をただ地面に鋤き込むのかしらんと思うが、そうではない(それじゃ肥料じゃん)。小さなスペースを借りて袋に入れた骨を入れていく。契約料は30万円である。

それ以外に年間の管理料が6,000円必要だが管理費が払えなくなる・または払わなくなった場合、別途ある合祀スペースに骨を移動し、空になった30万円のスペースにまた新しい人が入るという非常に合理的なしくみなのがいいと思った。墓守りがどうの、後継ぎがどうのだの気にしなくていい。
 
母の第一希望は海洋散骨だったが、樹木葬を選択したのは意外にというか非常に手間なこと、さらに故人と向き合う「場」が欲しいと思ったことが理由だ。
 
めっちゃ簡単そうな海洋散骨だが、調べてみると実はめちゃくちゃハードルが高い。骨をすべて海にまければいいがダメな場合残りの骨の行き場に困るし、骨はすべて1センチ以下の粉にしなくてはならない(という法律がある)ため、粉にする業者が必要で、さらに散骨する船をチャーターするとか乗り合いで行くとかをもろもろすべて手配すると50万くらいかかる。
 
あとで聞いた話だが、鳥取には骨を粉にしてくれる業者がいないので岡山の業者に送らなくてはならないらしい。都市部ではどうか知らないが、鳥取で海洋散骨をしようと思うと大変だ。ということで次善の策として樹木葬を選択したのだが、結果的にはいい判断だった。
 
小高い丘というか山の中腹にあるメモリーパークは日当たりが良く、風がふきわたる気持ちのいい場所だ。でかくて重い墓石の下に入るより、芝生の下で眠る方がいい。また、残された者にとっては、草取りや花の片付けなどすべて管理費に含まれているため手間がかからない。訪問者はただ訪れて花をたむけ線香を上げ、故人に思いをはせることができる。
 
契約後一週間してから納骨したのだが、その時にも僧侶がいなくて「お経がなくてもいいのかな」とくよくよと考えてしまった。メモリーパークのスタッフの方が「真言宗のお坊さんと契約しているので次からはあげてもらえるよう依頼しましょうか」と言ってくださり、実は契約時にもそう言っていたらしいがテンパっていたのかまったく記憶になかった。

お願いしておけばくよくよ考えることもなかったのになとその後もしばらくくよくよと考えていた。母がいなくなった悲しみより、お経のあるなしばかりをくよくよ考えている自分がアホかと思う。

4.費用・その他のまとめ


かかった費用
火葬式25万円+樹木葬30万円+10年分管理費6万円=61万円
 
9月ごろ医師に呼ばれ「あと3ヶ月から半年」と余命宣告をされていたこともあり、母はわたしたち娘と死後のこと・弔い方・相続などについて語る時間がじゅうぶんに与えられていた。故人の死生観にもよるしすべての人にそういうことができるとは思わないが、準備はほぼできていて困ることはほとんど無かった(悔やむべくはお経だけ)。
 
人が亡くなったらどのような手続きで遺体をどこに持っていき、葬儀を経て火葬に至るのか、元気なうちに考えることはほとんどない。漠然と流れに身を任せるだけでもなんとかなるが、故人の強い希望などがあるとけっこうドタバタするのではないかと思う。

それにしてもすばらしいのは「葬儀社」という存在である。葬儀社があるからこそ、故人を悼み火葬を終え骨を壺に収めるところまで滞り無く終わらせることができるのだ。お世話になった葬儀社の方々には感謝しかない。この場を借りてお礼を言います。ありがとうございました。
(だったら豪華な葬儀をあげたらと言われそうだがそれはまた別です。すんません)

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