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路線β

前に書いたストーリー、リメイク版ではじめだけ。
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道端の木の葉から冬も枯れていく。鞄を引っさげたままスマホをいじる。
「おや、またずいぶんと長い調べものですねぇ。どちらまでお出かけですか?」
トレンド、旅行、とある切符の使い道・・・。
ため息すらためらうほどの冷たい外気にあてられ、ショーウィンドウの光がこそばゆくちらついて、かといって、上を向いては人にぶつかるし、下はどうしようもなく灰色が沁みついて、それを世界と信じたくない。
足がせわしなく蠢き、信号機の音が規則正しい。まるで心臓の中心みたいに。心臓ならむしろ休息がいるな。深夜になるなら、それまで待とう。実際はきっと寝てしまっている。疲れ果ててなにも思わぬまま。本当に?
嘯いてキーを打つ。いつのまにかCMになっている。
いつだったか叔父さんが「酒に酔うと楽になる」と言っていた。蟒蛇のくせに、と半ば呆れてきいていたのだが僕も人のことはいえない。なにせそれは夢で実体などなかったのだから。

煙がモクモクと雲を割る。

くすぶっている空。電車が来るまではまだ4分もある。そうだ、なにか買っていこう。チョコレートバーを手に入れ時間まで待つ。震えて待つ。

祝日といえばきこえはいいが、この時とばかりに忙しい音は苦手だ。観光推進によって人とモノの通りが一気になだれ込んだ、この町では駅一つとっても重要なホットスポットらしい。
電車の入り口でご当地キャラがお出迎え。
・・・。
ドジョウかナマズだか正体が未だにつかめないのだが、真っ黒なキャラクターがいる。まん丸な目と長い尾ヒレ以外にこれといった特徴はない。口でも笑ってくれればわかりやすいのだが、あいにくない。着ぐるみも年季が入って、ゆるキャラというには若干微妙な立ち位置ではないだろうか。
キャラは2体。迎えと帰りで2体しかいない、ということは、町の大きさは駅一つ分で回ってしまうほどということはお察しいただけるだろうか。イベント時には周期が早くなるのだが。

笛が鳴る。

並んでいた列はゆっくりと動き出す。差し出した切符が切られていく。小刻みに。
「切符、裏になってますよ。」
小声でささやかれた。
「え?」
「裏になってます。」
よくみればマスコットから聞こえているらしかった。裏、そんなはずは、ない。思わず裏を見、突然、切符の裏返しのままカチャリ!と威勢よく手が降ろされ、唖然とする。切られた断片が落ちていった。
「なんちゃってね。”裏を切り”ました。今日は祝日ですから、晴れやかに生きましょう!」

こんな顔でも見えるものか。思わず目をしばたかせているうちに、人波に押し流されるように車内に吸い込まれていく。


眠ってしまっていた。・・・・・昔の夢をみていた。遠く離れていった友人がいる。いつか、会おうと約束していたのに、ソイツは、あろうことか親に染められて、

「ガタン」

目覚めたときには誰も乗っていなかった。しまった。寝過ごした。慌てて先頭車両に行くが、そこには誰もいなかった。誰も。
誰もいない?

壮大な野原と、線路と、夕焼けが今にも消えそうなほどの灯を残している。駅長がいない。誰もいない。

異変はすでにはじまっていた。

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写真は  Febi Ariyantoによる写真: https://www.pexels.com/ja-jp/photo/2101790/  から

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