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天空の菜の花畑に舞い降りる『能』2024年4月28日開催

2024年4月28日に行われた「世界最古の舞台芸術『能』天空の菜の花畑に舞い降りる」。岡山県美作市にある天空の菜の花畑にて能が披露されました。美作の山奥、畑の中に突如として現れた「能舞台」。つくったのは美作市で有機農業を営むほのぼのハウス農場の山口とボランティアの有志でした。
この記事では、どうして農家が能を主催したのか、その経緯と当日の模様をお伝えします。


雲一つない天候に恵まれた菜の花能

4月下旬、連日雨が降り続くなか、ほのぼのハウス農場スタッフは菜の花能を無事に開催することができるのか、日々農業をする傍ら、天気予報に一喜一憂。しかし、当日は、まるで神様が味方してくれたかのように、ぴったりこの日だけ晴れ。満開の菜の花畑に青い空、すがすがしい野外能日和となりました。

天空の菜の花畑。ふと、ここはどこかと幻想的な感覚に包まれる。

なぜ菜の花畑で能!?

そもそも、なぜ農家が能を主催することになったのか。菜の花畑の真ん中で能を舞うというこの企画の背景には、ほのぼのハウス農場・代表山口のある想いがありました。

山口は、御縁があり、今年1月に能楽を鑑賞しました。そこで見た世界に魅了された山口は、自身の畑で子どもたち、まだ能を観た事のない人々に能を見せたいと思うようになりました。

700年間、一時も途切れず続いてきて、今もその完成した美しさを見せてくれる「能楽」。日本人として、生涯の中で一度は見てみたいもの。
だけど、美作では能を観る機会も、能を知る人も少ない。
ならば、菜の花畑で能をしよう。壮大な景色の中で、初めての能も楽しめるのではないかと急ピッチで企画を進めることになりました。

企画を進める中で、能の勉強をする山口。能の源流には、人々の平和、五穀豊穣を願う祈りが込められていることを知ります。日本でおきている、災害や貧困。世界で続く、干ばつや飢餓、終わる見込みのない戦争。自然と人と向き合う農業をしていると、それは他人事として片付けられなようです。能に込められる700年の祈りを知った山口は、必ずこの菜の花能をやり遂げると決意を固めました。

有志でつくった能舞台

能は通常「能楽堂」という能楽専用の劇場で催されます。「薪能」という野外で行われる能もありますが、手作りの能舞台にこのような大自然の中での「能」というのは前代未聞なのではないでしょうか。能舞台の専門家もいない、能を観た事がない人がほとんどの中の、能舞台つくり。当日はどうなるのかと、不安と期待いっぱいな心境で、コツコツとつくりあげました。

木を切るところから。ボランティアの方が作する様子。
ボランティアが毎週末あつまって基礎から能舞台をつくる様子。
地元の子どもたちも集まって、逞しく作業する姿。
完成した能舞台。

不安だらけの本番当日

本当に人は集まるのだろうか。能を主催するなんて、能を観た事すらないのに・・・。初めての試みにスタッフ一同不安でいっぱい。連日、夜遅くまで当日の受付は、当日のタイムテーブルは、暑さ対策は?と念入りに打ち合わせが続きました。

迎えた当日の朝。

雲一つない天候に恵まれました。

そして、「田舎で能を観る機会はめったにない!」「ちょっとした好奇心で・・・」「能には興味がないけど、山口さんが言うなら・・・」と老若男女様々な方々が岡山県外から250人ほど集まってくださいました。

なんと、この会、能を初めて見るという人は全体の7割を占めました。(事後アンケートより)

イベント当日は初めて見る人にもわかりやすいように、能の舞台以外にも、トークやワークショップを取り入れました。当日の演目は、五穀豊穣を祈る「翁」、平和を願う「高砂」、天女の天空の舞「羽衣」です。それでは、当日の模様をお届けします。

700年の祈りの舞

まず、当日の演者のひとり、喜多流能楽師の高林昌司さんによるトークが行われました。「能は700年前に大成された。当時は、今よりも生きるということが困難だった時代。病院もなければ、カウンセリングもない。人々は、苦しいときは、祈ることしかできなかった。そんな時代背景の中、能は生まれた。日本人がどのような生活の中で、どのように祈ってきたのか、能では知ることができる。」と能に込められた祈りについて説明します。

また、「能の源流のひとつに、田楽がある。そういう意味では、能を畑ですることは能の原点回帰だともいえる。」と能と農の関係性に触れました。

さて、能楽師による能のスタートです。まずはじめに、三世代による素謡「翁」を披露しました。翁は、能楽の源流、「能にして能にあらず」とも言われています。明確なストーリーはなく、天下泰平、国土安穏、五穀豊穣を祈祷する一種の儀式のような演目です。

右から、高林呻二(しんじ)、白牛口二(こうじ)、昌司さん。

参加者のSさんは「三世代による謡。世代を超えて、受け継がれてきた能の継承のかたちをみることができた。昌司さんもおじいさんのようになられるのだと思った。」と語ってくれました。

高砂

続いては、高砂です。高砂は、九州阿蘇の宮の神主友成(ともなり)が、ある老夫婦に出会い、その老夫婦を追って、住吉へ行くと、住吉の神が目の前に現れ、神楽に合わせて、颯爽とした舞を舞い、平安な世を祝福するというストーリーです。

世界の平和を祈る非常におめでたい舞で、結婚式の場でも披露することがあります。

高砂を舞う高林呻二さん。

特徴的なのが、軽快な舞と爽快な囃子の掛け合い。観客は当日の暑さを忘れて、その世界に引き込まれていました。

菜の花畑一面に、囃子の爽快なリズムが響き渡る。

能の見方が変わる!?ワークショップ

つづいて、囃子(能の楽器)のワークショップです。
今回、囃子方は関西を中心に活躍する「ナニワノヲト」をご招待しました。

能の楽器は全部で4つ。右から、「笛(能管)」「小鼓(こつづみ)」「大鼓(おおつづみ)」「太鼓(たいこ)」と呼ばれる楽器です。
笛の特徴的な甲高い音、小鼓の音色の変化、大鼓の叩く力での音階の変化、太鼓の突き抜けるような甲高い打音をそれぞれ披露しました。

楽器をひとつひとつ説明するナニワノヲト。

後半は、参加者を巻き込んだエア小鼓体験。「左手で楽器をもって、右肩に構えて~」「右手と肘を一直線に構えを綺麗に!」と本格的な小鼓体験に参加者一同熱が入ります。参加者の方からは「エア小鼓最高でした!」「能の見方がすこし変わりました。」とうれしいお声をいただきました!

エア小鼓をするナニワノヲト小鼓方成田奏さん。

羽衣

最後に、今回のメインである「羽衣」です。
羽衣は、天女が漁師から羽衣を返してもらったお礼に、天空に舞を舞いながら、天へと戻っていくお話。まさに、天空の菜の花畑にぴったりの演目です。参加者さまから頂いたご感想と共に当日の写真をお届けします。

初めての能でしたが、お話を聞くごとに興味がわき、さらにワークショップでおはやしの事が少しわかり、大変楽しい体験でした。羽衣の頃には本当に能にしたっておりました。風もふいて衣がゆれ、まことに最善な舞台でした。

能楽堂ではなく、大自然の中で能が観られる事がとてもうれしく拝見させて頂きました。菜の花畑とのコラボレーションが美しかったです。

特に羽衣には圧巻でした。風が吹き空には龍が舞っているような中、本当に天女が羽衣をまとい舞い上がっている様に見え、幽玄で素敵でした。このような機会をいただきありがとうございました。

能を知らない人々が自然の中で本当の能にこめる思いを感じ、味わった事と思います。素晴らしいイベントだったと思います。素敵な種をまかれましたね。大きく育ってほしいです。

参加者全員で形にした五穀豊穣の祈り

最後に、天下泰平、五穀豊穣を祈る謡として「絵馬(えんま)」を参加者の皆さんと謡うワークショップをしました。

《絵馬のあらすじ》
大晦日に伊勢神宮の斎宮に参拝した勅使の前に夫婦の老人が現れ、
神前に絵馬を掛けて来年の天気を占うという話をする。
白毛の絵馬を掛ければ日が良く照る、黒毛の絵馬を掛ければ雨が良く降る、今年はどちらを掛けるかと問われ、今年からは争わず二つの絵馬を掛け、雨も降らし日もよく照らして、万民が楽しむ世となして国土を豊かにしましょうと話す。その夜に伊勢の神が現れ、天岩戸ごもりの話を見せて、幾久しく国土も豊かに天下泰平の世が久しく続くことを祝う。

《絵馬の謡》
天地再あめつちふたたび開け治まり 
国土も豊かに月日の光の
長閑のどけき春こそ 久しけれ

「広大な畑で謡う謡には、最も相応しい謡なので、観客の方も普段出す声よりももう少し大きな声を出して謡いましょう」と能楽師の方が話すと、参加者の方々は、とても大きな声で、よく揃って謡っていました。

参加者の方々と能楽師という枠を超え、太古の昔から受け継がれてきた祈りを大きな自然の中で畑にむけて形にした瞬間でした。

まとめ

大盛況のうちに、無事に終了した天空の菜の花畑に舞い降りる『能』。
能をはじめてみる人がほとんどの中、多くの参考者さまが「能に親しみを持てた」「美しかった」というお声をいただき、純粋に能を楽しんでいただけたそのことが、何よりも今回開催して良かったと思いました。
また、農場のこの企画に込める特別な気持ち「祈り」は、農業を10年間続けてきたなかで生まれた必然的なものだったのかもしれません。

参加者さまから頂いた「素敵な種をまかれましたね。」という言葉のように、この経験をさらに10年、100年後にも続くように、また明日からも畑に出て汗を流したいと思います。

最後になりますが、この度は、能舞台づくりに関わってくださったボランティアの方々、ご協力・ご協賛を賜りました関係者の方々、当日お暑い中、足を運んでくださった観客の皆様、誠にありがとうございました。心から感謝申し上げます。

最後に能楽師とともに記念撮影。

執筆:髙林 木綿子/撮影:藤井 啓貴 /編集:和仁 奈緒子


■次回、天空の菜の花能舞台、制作の秘話に迫ります!お楽しみに♪

■今回ご招待した能楽囃子ユニット「ナニワノヲト」さん
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■合わせて読んでいただきたい記事
アフガニスタンと美作を繋ぐ上映会』
2024年4月21日に開催された「上映会・荒野に希望の灯をともす」の当日のレポートです。代表・山口は、中村哲医師と共に働いた特殊な経験を持ちます。農業はじまって、10年目にして、自身の原点となる中村哲医師のドキュメンタリー映画にこめる思いを綴りました。




\もう100年先も里山に子どもたちの笑い声を/
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