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鬼滅ボール

12月ぐらいの日記

先日、父と近くのスーパーに行った。父は眼鏡屋に用があるということで、暇な私はゲームコーナーで暇を潰すことになった。

平日の18時過ぎということもあり、そこに人気はない。筐体の発する無機質な待機BGMは、底の抜けたような軽い明るさで、重く寒い冬の夜にはどこか不釣り合いだ。そのゲームコーナーからは、やる気を見て取れない。クレーンゲームは完全に落ちないとゲット判定にならないと書いてある。アームや取り出し口に引っ掛かっても助けてくれないらしい。休日なんかは子どもも多く来るのだから、少しくらいサービスすればいいのに。
景品のラインナップも雑多だ。とりあえず流行りものを入れとけ、という適当さが感じられる。これでもマシになった方だが。前なんか、流行りものすら入ってなかった。

で、だ。私がコーナーを眺めていて目に入ったのは、スーパーボールを掬えるゲーム筐体。丸い形状で、いかにも子ども向けだ。私は目を奪われた。
というのも、少し前から、スーパーボールが欲しい、という衝動に駆られていたのだ。色々な場所を探してはみたが、思うようなスーパーボールが見つけられず、といった矢先のこれだ。なるべくならマーブルのやつが欲しいが、とにかくスーパーボールならなんでも良い。
ドーナツ型の水路を、勢い良くスーパーボール達が泳いでいる。まるで、流れるプールのようだ。そのスーパーボール達の中に、一際目を引く模様付きのボールがある。

あ、これ、鬼滅だ。

ゲームセンターやガチャガチャにアンテナを張っている諸兄はピンと来るだろう。鬼滅の刃のキャラクターが纏っている衣服の模様をした様々な景品を見たことがあるはずだ。滅、という文字が入っていたり、いなかったり。
これは許可を取っているのか。伝統紋様扱いでセーフなのか。それはさておき。明らかに鬼滅を意識した模様が入っているボール(以下、鬼滅ボール)が、大勢のスーパーボールに混じって浮いている。鬼滅ボールは、他の一般スーパーボールに比べて少し大きめのサイズで、取りづらそうである。数も少ない。この筐体の目玉商品、当たり、といったところであろうか。
まあ、簡単には取れないだろう。だが、私が欲しいのは鬼滅ボールではなく、ただのスーパーボール。子ども向けっぽい筐体デザインであるし、原価を考えれば、スーパーボールごとき最低でも1つ2つは手にできるだろう。

というわけで、100円を投入する。1つ目のボタンは、クレーンを水場に持っていく役割を果たしている。とはいえ、ボールの流れが速すぎてどこに動かしても一緒な気がする。それに、特定のボールが欲しいわけでもないので困った。なので適当に、それっぽい位置に動かす。
そして、2つ目のボタンはクレーンを下ろす役割。これはかなり重要だ。何がゲットできるか、このボタンのタイミングにかかっているといっても過言ではない。こちらも適当に、それっぽいタイミングでボタンを押下する。

あ、あ、これ、結構クレーン部分は軟弱だな。めちゃくちゃ水に流されてるじゃん、あ、ボールが1個引っかかった、このまま維持できるか、あ、あ…!


鬼滅ボールが取れた。
なんで?
そっちじゃない。


取り出し口に手を伸ばし掴んだ、水に濡れたボールは、他でもない鬼滅ボール。おそらく、胡蝶しのぶさんをモチーフとした柄の。
持ってみて分かったが、これスーパーボールじゃないじゃん。軽い。凹むタイプのゴムボール。よく見たら底面が平らになっており飾りやすそうだ。これを飾るのか…?ボールというものは転がすのを用途としているのではないのか?形のせいで少々転がしにくいのだが。

いやいや、これは何かの間違いだ、と思い、もう2回やったのだが、何も取れなかった。取れないんかい。スーパーボールの1つや2つぐらい取らせろ。
この文章を読んでいる皆さん、教えてほしい。私はこの鬼滅ボールをどうすれば良い?

正直に言うといらん。だってスーパーボールじゃないもん。スーパーボールだったら良かったんだけど。
でも、これを受け取って喜んでくれそうな知り合いは一人も居ない。フリマアプリに出そうにも、これ1つだけ売りに出すのは面倒すぎる。売りに出したとて売れるのか。かといってブックオフ的なところに売ろうにも、おそらく公式グッズじゃないから売れない。

でも!これはいわば当たりを引いた状態。大の大人が子ども向け景品の当たりを引いておいてそれを蔑ろにする、というのは気が進まない。
というわけで、胡蝶しのぶ鬼滅ボールは、リビングの片隅に転がっている。

これは呪いだ。誰か助けてくれ。

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