【本の雑誌おじさん三人組が行く!】お洒落カフェに挑戦の巻

 本の雑誌おじさん三人組は2010年10月に結成された本の雑誌社が誇る取材ユニットである。 メンバーは神保町のランチマイスター・宮里潤、本の雑誌炎の浦和レッズサポ・杉江由次、本の雑誌編集発行人・浜本茂だ(若い順)。
というと、いかにも選ばれた精鋭三人組のようだが、実は本の雑誌社にはおじさんというか男性社員は三人しかいないので選びようがなく、精鋭も前衛も東映もない。
 その精鋭三人が中学生の社会科見学のように出版業界に関連するあちらこちらを訪問し、驚嘆したり舌打ちしたり毒づいたりした記録である。

──若者のすなるブックカフェなるものをおじさんもしてみんとてするなり。
 というわけで、本の雑誌のおじさん部隊が立ちあがった。浜本茂五十歳、杉江由次三十九歳、宮里潤三十六歳の精鋭三人衆である。いずれも家庭はあるが、家ではトイレと風呂しか本を読む場所はなく、通勤電車が動く書斎。本が読めさえすればいいじゃないの、と強がってはみるものの、本音をいえば、もっと快適な読書空間があったらうれしい。おお、そういえば最近、ブックカフェという単語をよく聞くではないか。噂によると本が並んでいてコーヒーを飲みながら優雅に読書ができるらしい。しかし、浜本も杉江もスターバックスにすら一人で入るのをためらう生粋のおじさん体質。連れだった人と「同じの」としか注文できないのである。そんなおじさんがブックカフェに入れるのか! そこで、一人でスタバのカウンターに行きカフェモカを注文できると豪語する宮里をお供に、都内の有名ブックカフェに行ってみることにした。はたしてチャレンジの結果は?

杉 ブックカフェって自分の本を持っていって読むわけ?
宮 違います。本が並んでるんですよ。本が買えるところもある。
杉 つまりコーヒー代で本も読めるっていうのがウリなのか。
浜 漫画喫茶みたいなもんかな。

 とかなんとか言いながら、まず到着したのは原宿駅近くの静かな住宅地にたたずむ「ビブリオテック」。ものすごくオシャレで、浜本も杉江もビビりまくってウィンドウ越しに中の様子をうかがうばかり。見かねた宮里が二人の背中を押しながら入店。意を決して入ってみると、これが意外にもすっかりなじんでなかなか出られない。

浜 いや、居心地いい店だねえ。まず頼むものが三つしかないのがすばらしい(笑)。
杉 コーヒー、紅茶、抹茶。あとホットかアイスかの選択肢だけ。コーヒーが一種類しかないのがわかりやすいですよね。
浜 まったく。スタバに教えてやりたいよ。
杉 しかも普段読まないような本ばかりなのがいい。
浜 うん。非日常感っていうのかな。それが日々の疲れを癒してくれるんですよ。
杉 日ごろ見かける本があると、現実に戻っちゃいますもんね。
宮 写真集とか活字が少ない本が多くて、コーヒーを飲みながら見るのにちょうどいいですよね。
浜 大きくて重い本が多いから、でかいテーブルに広げて読むのがぴったりだし、椅子も座り心地が最高。
宮 ソファもいいですよ。
杉 居場所発見しちゃった(笑)。こんな部屋が家にあったらいいですよね。
宮 帰るのが楽しくなるなあ。
浜 じゃあ、会社に作っちゃおう(笑)。
杉 そうか。会社を改造すればいいんだ。それで誰でも入れるようにして、お金をとればいい。
宮 本の雑誌の本、買えますとか(笑)。そういえば、次に行く「レイニーデイ・ブックストア・アンド・カフェ」はスイッチの本を販売してますよ。

 宮里が言うように「レイニーデイ」はスイッチ・パブリッシングが経営するブックカフェ。西麻布にある会社の地下がカフェになっているのである。レンガの壁がオシャレな外観にやはりビビりながら入店すると、店内には先客が二人。どちらも若い女性で店のものだろう、本を開いている。メニューを覗くと、片岡ブレンドというコーヒーがある。片岡義男がブレンドしているらしい。おお!と言いつつそれを注文。

杉 ここはカフェなの? 普通に喫茶店で通るんじゃないかな。おじさん感覚でいうと、本を読むにはちょっと照明が暗いし。
浜 でも読むといっても、さほど読みたい本はない。売ってるといってもどこでも買える本だし。
宮 本屋と謳うんだったら、もう少し本を置いてほしいですよね。スイッチのショップみたいな感じが強い。
浜 片岡義男ブレンドは話のネタになるけど(笑)。
杉 片岡義男のポストカードを見ていたら、裏にエッセイが載っていて、店の女の人が限定で販売しているという話をわざわざしてくれた。これはポイント高い(笑)。
浜 なるほど。こいつは買いそうだと思われたんだな。
杉 シティボーイだと思われたのかな(笑)。あるいは角川の赤背に憧れたおじさんが上京して、片岡ブレンドを飲みに来たと思われた(笑)。
宮 片岡さん、いるんですか、くらい聞かれるかと思ってたかも(笑)。
杉 喫茶店みたいで入りやすいけど、客が若い女性二人で本を読んでるってとこは、やっぱりアウェイ感がありますね(笑)。

 三軒めは開店一周年を迎えた新宿の「ブルックリンパーラー」。マルイアネックスの地下一階にどおーんと百席はあるだろうという広ーいカフェだ。レンガの壁に様々な小物が配置された空間はものすごくオシャレで、おじさん三人はどこに座っていいかわからない! 壁の一画にはでっかい本棚が設けられ、おなじみ幅允孝氏が選書した本が並んでいて、自由に読むことができ、なおかつ買うこともできるらしいが、どんな本が並んでいたものか、まったく目に入らない。なにせおじさんたちは宮里が頼んだルートビアに驚くばかりなのだ!

杉 いや、衝撃の飲み物だったね。薬臭いどころじゃない。
宮 ノンアルコールビールみたいなものだと思って頼んだのに。飲み物をアメリカ仕様にしようとしたんでしょうけど。
浜 ものすごくまずい(笑)。
宮 罰ゲームかと思った。喫茶店に置いたら大不評ですよ。
杉 なんでビアなんだろ。本も想像してたより、しょぼいですね。客が棚を見てないでしょ。
宮 本を読む目的の人がいなかった。お茶を飲みに来てる感じ。
杉 本は壁紙と同じってことですよね。スクリーンっていうか。
浜 うん。ようするに本が飾ってあるデカい喫茶店。壁にあんなに金かけなくても。
杉 クロス貼るより安いんですよって言われたらショックですよねえ(笑)。あれがブックカフェのスタンダードなのかな。
浜 もっと入った瞬間に怖いってひるむ感じが欲しいよね。
杉 そう。外国の店に入っちゃったみたいな、ドキドキ感が欲しいですよね。こんな本、見たことないよって。そういうブックカフェを探しに行きましょう!
(本の雑誌二〇一〇年十一月号)


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