見出し画像

『機能獲得の進化史』を読んで考える弱肉強食と適者生存の本意。

『機能獲得の進化史 化石に見る「眼・顎・翼・あし」の誕生』を読んだ。図書館の新刊コーナーにあったので、つい借りてしまった。

古生物は、なんとなく好きで。
絶対にこの目で見ることのできない、時間の中に消えた生き物たちというのは、想像するだけでわくわくするんだけど、他の方はどうなんだろう。
古生物学は、人類史の延長線上にあると思っている。
我々はなぜ我々なのか、を突き詰めていくと、どうしたって生物の進化史に行き着くし。

なので、うちの子どもたちが幼少期の頃、乞われるままに恐竜の本をたくさん買い与えた。
子どもと共に読みながら、恐竜研究の進歩を知り、首都圏の恐竜博に毎年通い、展示の仕方の変遷をも感じつつ……。
あれから十数年。
古生物界隈から置いてけぼりになっていることを、思い知った読書となりました。あ~あ。

この本はいわゆる入門書です。
なのに入門書としては手を出しにくい価格。さすがみすず書房さんよのう……なんですが。
冒頭に、6億3500万年前からの地質年代表を載せてくれるあたり、門外漢(漢じゃなくても)が何を欲するか、わかってらっしゃる、憎いね。

サブタイトルにもあるように、生物がどんな機能を獲得しながら進化してきたか、についての本なので、「攻撃と防御」「遠隔検知」「あし」「飛行」「愛情」の順に章立てされています。
「攻撃と防御」は、顎やかたい身体の獲得。
「遠隔探知」は、目をはじめとする五感機能の獲得。
「あし」「飛行」は、まあそのままとして。
「愛情」は、生殖方法の変遷(体外受精か体内受精か)や、卵生から胎生への進化について。

と書くと、その辺の進化史の教科書と変わらんやんけ、となってしまいそうですが。

進化のポイントは、何かのために‟機能”を獲得するのではなく、獲得された‟機能”が結果として、次世代に残ることにある。
さまざまな‟機能”は、現在の生物たちが使っている‟目的外”で生まれたものが多い。
そもそも「進化」は、目的があって進行するものではない。
機能は必要だから獲得されるわけではなく、獲得された機能が‟歴史を進めて”いくのである。
現在の生物がもつさまざまな機能は、もともとは別の役割を果たしていた可能性が高いのだ。
機能獲得の進化史は、‟機能転用の進化史”でもある。

つい、本文より引用してしまいましたが。
そういうことなんだよねえ。

進化史を読んでいると、弱肉強食やら適者生存やらといった言葉がちらつきます。
それらが新自由主義に借用されていることも。
(以下、私論)

でも、ちょっと待って。
たとえばIT技術をより身につけた方が適者生存と言えるほど、自然界は人間に優しかったっけ? とか思ってしまう。

我々は、自然界では全員弱者だからこそ、集団になることで生き延びてきた。
弱者を守るという前提の上で、ムラや都市国家をつくり、余剰収穫物を集めて支配者層を飼うことで、集団を外敵から守らせたりしてきた。

でも、今の日本に蔓延る新自由主義は、「非正規に落ちた貧乏人は踏まれてろ」的な、集団内での椅子取りゲームに過ぎない。
本来、助け合うべき集団内で、自分以外を皆敵みたいにして叩き合うのって、行き着く先は全員敗者。
組織内で少数が生き残ったって、それじゃ社会は成り立たないし、他所に助けを求めるしかなくなる。
でも、身内内で冷酷に叩き合った奴なんて、誰も信用しないよね。
外の人からしてみたら、自分が叩かれる前にうまいこと利用しつくして捨てる、それだけでしょ。

新しい技術に対応していくことは、確かに重要だし、経済的チャンスにも繋がることだから、疎かにしていいわけじゃないよ。
ただ、その能力差を理由に経済格差を肯定し続け、あまつさえ、人としての最低限度の文化的な生活をも許さないような状況は、どうなのよ? と思うわけで。
その辺を自己責任一辺倒で終わらせるのではなく、いつでも学びの機会をつくるとか、その間の生活補助も用意するとか、国民全体の底上げを図っていくことが、人類としての生き残り戦略じゃないかな、と思うわけで。

それに今のIT技術なんて、社会が成り立っているからこそ価値があるんで。
30年後の日本で、弱者を叩き続けた日本で、気温が上昇して海進が問題になるであろう日本で、価値がある獲得技能は何だろうな。

人類が生き延びるための適者生存を言うなら。
CO2削減の画期的な技術を、今すぐ開発するとか。
人間も光合成をして、エネルギー生成できるようにするとか。
自然の猛威と戦うために、生存を第一とした社会に転換するとか。
どれも非現実的だけど、結構危機は待ったなし。

同じ種族内で争っていられるほど、地球は優しくない。
かろうじてまだ優しかった時代を喰いつぶしてしまったのも、人類。

毎日、世知辛い世の中を生きていると、孤独も感じるし、自分が個人としてもっと幸せになりたいとも思う。それは普通のこと。
だけど、ちょっと地球的視野で見てみると、我々を取り巻く世界は、人間の下衆な感情を吹き飛ばすかのような、圧倒的な力で、容赦なく迫ってくる。

我々は永遠に生きられるわけはなく、必ず死ぬし、人類もいつか必ず絶滅する。
どの古生物も、自分たちが絶滅するなど思いもよらず、ただただ懸命に生きていた。それは事実。
自分だけは特別、大丈夫。そんなことは絶対ない。

自然科学系の本は、自分の視点を日常から逸脱させてくれる。
だからこそ、ときどき取り入れて読む価値があると思う。

自然科学に普段親しんでいる人は、ときどき人文学系の本を読んでみて欲しい。
いろんな視点を持つことで、見えてくる世界があるから。

よろしければサポートをお願いします。いただきましたサポートは、私と二人の家族の活動費用にあてさせていただきます。