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『サラブレッドに「心」はあるか』を読んで、馬と人間を学んだ話

昨年、家族がウマ娘をやり始めました。
日常生活の中に、ちょいちょい馬が顔を出して来ます。

始めは、サラブレッドの話をしたり、競馬番組を見るだけだったのですが、競馬をテーマにしたマンガ『みどりのマキバオー』が導入され、狭いリビングに置かれるようになり……。
せっかくだからと読んでみたら、これが面白い。

『みどりのマキバオー』は人間と動物の垣根を越えたファンタジー競馬マンガなんですが、馬・ネズミ・人の三者が自由に意思疎通してるし、出てくる馬がどいつもこいつも人間臭いし、それ以前に、主役のマキバオーが馬というよりゆるキャラだし、とにかくどこからでも楽しくツッコめる熱いスポ魂マンガとなっています。(長い……)


こうやって家族で馬モノにハマり始めると、馬のことをちゃんと知りたくなるのが人の性。
ということで、図書館で借りてきました。
楠瀬良さんの『サラブレッドに「心」はあるか』。

あらまし

この本は、週刊競馬ブックの2008年から2011年に掲載されたコラムを加筆修正されたもので、巻末に武豊さんとの対談(『サラブレッドはゴール板を知っているか』より再録)も掲載されています。

元々が週刊誌の連載なので、Q&A形式になっていて、とっつきやすいです。
内容のレベルとしては、全くの素人でもついていけるレベルで、馬や競馬の基礎知識が学べる、という感じですね。
①馬の心と体、②馬券を買うときの注目点、③育成方法、④競馬の歴史、というように章立てされているので、Q&A方式とはいえ、まとまりがあります。
実際に馬を使って行われた実験なども記載されていて、真の馬の姿を垣間見できますね。

サラブレッドに心はある

ところで、タイトルの「サラブレッドに心はあるか」という問いには、当然ながら「ある」と答えることになります。
馬も初めて行く場所では緊張するし、慣れないことをやるのはストレスになるようです。

馬は社会性のある生き物なので、何頭かの馬と一緒に放牧されているうちに、順位(カースト)がついていくんですね。これは他者(他馬)のことながら、読んでてキツイ。
気の強い馬が上位に君臨し、気弱な馬は下位に甘んじるしかなくなる。
レース中も馬群に呑まれると、下位の馬は怖がってしまって、ずるずる後退するか、さもなければ、馬群から逃げて先頭を走りまくるなんて。想像するだけで可哀想……。

そんな、心のある生き物なので。
お世話される厩務員さんや調教師さんが、どれくらい馬の気持ちを考えて育成していくかで、落ち着きのある、リラックスできる、けがのない、本番のレースで勝てる馬というのが、育っていくようなんですね。もちろん、遺伝的要素が強いんですけど、それでも。
巻末の武豊さんとの対談を読んでいても、海外の放任主義で育てられた馬は、乗りにくいようです。
馬のことを考えて、馬の身になって接するからこそ、結果として、馬も人の気持ちにこたえてくれるかもしれない(個人の感想です)。

馬も人も、教育はその子の身になって

競馬は遺伝子勝負ではありますが、強い馬の子が必ず勝つわけではないのもまた事実。
勝てば大金を稼いでくれるからこそ、人間は馬の気持ちや体調を考え、馬がリラックスして走れるように、できるだけのことをします。
読んでいて思ったのは、これって人間に対しても言えることじゃないかな~と。

子ども(学生・後輩・部下)の気持ちや体調に考慮し、できる限りの資源を投入し、育成・教育そのものに効率化を求めない。
教育を自己責任として放置しない。
馬相手には絶対しないことを、我々はどうして人間相手にしてしまうんですかね。

リターンで得られる金額が違う?
人間は、自分で学習の大切さを理解できるだろうって?

いや、でも、人間ひとりの生涯賃金だって馬鹿にはできないし。
それ以前に、他者を資本主義経済の目線で見るってどうなんだろう? だし。
子どもは次世代そのものなので、育成を軽んじると、経済力が落ちたり、社会が疲弊したり、治安が悪化したり、ろくでもないことが起きかねない。と、私は思います。

人間は言葉が理解できるだろう、だから自己責任だっていう意見もありますが、大人同士でも、言いたいことを100%伝え合うのは無理ですからね。
まして子どもならなおさら、「教科書を読むだけ」「一方的な授業を聞くだけ」で、内容が伝わる子ばかりではないし、その伝え方についてもいろいろあるわけで。
この世には敵わないものがあるわかれよ、って言うのは、他者を蔑むことで優越感を得たいだけ、自分はわかったという自己肯定感を満足させるための、まあ怠惰の具現とも言えます。

敵わないものがあると悟る

巻末の武豊さんとの対談にありましたが、武さんは「馬には敵わない」と仰ってます。力が。当然ですけど。
だから、自己主張をしない、あくまで馬を誘導するように騎乗する、と。

これ、ものごとの本質をものすごく突いていると思います。
人間は、相手を力でねじ伏せられると思うと、強引なこともやらかしますからね。体罰とか。
男尊女卑とか子どもの虐待とかDVとかも、「力で勝てる」からこそやらかすわけで。
会社におけるパワハラも、社内権力で勝てるからだし。
さらに言えば、自然環境に「勝てる」と思い込んでいたからこそ、ここまで温暖化を放置してしまった。

我々は万能感に酔いやすい生き物です。
他者に命令を下せる、他者が自分の指示に従って動く、その万能感は麻薬でしかなく、酔いしれたいが為に相手を支配しようとします。
支配を支えるのは力。

だからこそ、大型動物のような力では敵わない存在を知り、己の小ささを受け入れ、自己主張を相手に押し付けるのではなく、相手の気持ちに寄り添うことが必要なのではないか。そう思いました。
他者を論破するのではなく、相手の気持ちを尊重する。
違うと思うなら、提案型の意見を言ってみて、でも判断は相手に委ねる。
結果、自分にとって面白くないことになっても、怒らない。
難しいことですが。

でも、理不尽に支配してくる相手より、絶対好感度高いですよね。

おわりに

結局、馬のことを知ろうと思って読み始めても、人間関係の問題の方に引っ張ってしまうのは、都合の良い読み方だろうな、とは思います。
何でもかんでも教訓を得ようとするのも、あざといですね。
でも、まあ、読んじゃったものはしようがない。

馬の話、ほとんど取り上げてないじゃん、って思われた方は、本書をどうぞご確認ください。

この本も、たまたま図書館の棚で目についたから読んだのですが、そういう棚での出会いが人生を変えることもありますよね。
これからもいろんな棚での出会いが、皆さまにもありますように。

ありがとうございました。

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