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【イベントレポ】恐竜少女が古生物学者になって、思い出のまんがを復刊させた話(後編) #吉川豊×木村由莉スペシャル対談2

かつて多くの恐竜少年少女たちを熱狂させた、伝説の学習まんが『きょうりゅうのたまごをさがせ』。この本で育ち、後に古生物学者になった木村由莉先生の熱望が実り、この夏、34年の時を経て改訂版が発売された。

当時、「この本を読んだ子どもの誰かが、いつか古生物学者になったらスゴいな…」(「あとがき」より)と思いながらまんがを描いていたという吉川豊先生と、本当に古生物学者になってしまったファンによる、夢のスペシャル対談後半戦! 
上野・国立科学博物館で開催中の化石ハンター展や、その舞台裏を収めた新刊『化石の復元、承ります。』の見どころも語ってもらった。

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*本記事は、2022年8月2日に開催されたオンラインイベント「化石ハンター展をもっと楽しむ90分! まんが『きょうりゅうのたまごをさがせ』復刊&『化石の復元、承ります。』刊行記念イベント」の内容をもとに作成しています。

※イベント告知時の画像です※


34年ぶりの改定

――1988年版の『きょうりゅうのたまごをさがせ』では、イグアノドン類が水中で暮らしていたり、ティラノサウルスがゴジラ立ちで復元されていたりして、34年ぶりの改定にあたってそのあたりを修正したとのお話がありましたが(#吉川豊×木村由莉スペシャル対談1参照)、学説が変わったことで他にも変更されたところはありますか?

木村:最初に出てくる恐竜の卵のところ。当時はプロトケラトプスのものと考えられていた卵化石が、実際にはシチパチのものだったということが今はわかっていて、改訂版ではシチパチに変更しました。それに伴ってこの後のヒロキの吹き出しも変更していて、1988年版で「プロトケラトプス」と聞いたヒロキが「プロペラトレタ?」って聞き返すシーンがあるんですけど、そこをシチパチにかけて数字の「しち、はち?」って返してとぼけるというセリフにしています。

――ホントだ…! これは吉川先生が?

木村:このギャグは編集さんが考えてくれたんですよね。

吉川:そう。つまんないと思ったら編集部にクレーム入れてください(笑)。

木村:あと個人的に印象的だったのは、3つ目のバードのお話のところで、肉食恐竜と植物食恐竜の足跡化石を追って行くと岩がそびえていて、その先の発掘を断念するというシーン。実際には、この場所にこのような岩はないんですよ。なので、私がたまたまその場所の写真を持っていたので、それを参考に薮に描き変えてもらいました。お話としては岩の方がドラマチックでおもしろいんですけどね。岩があれば絶対に掘り進められないので。薮だと、発掘を断念するには弱いですよね。なので、もし他の部分もフィクション要素が多くて、この場面もその一部として違和感がなかったら、もうこのままにしようと判断したと思うんですど、他がこれだけ史実に沿っているので、最後もやっぱり史実に沿わせようと。

――そうなんですね。改訂版では木村先生の欄外コメントも追加されていて、それを読むのも楽しいです。

木村:それも編集さんのアイデアです。

吉川:すごいことだと思いますよ。かつての読者がまんがに入って、欄外コメントをしてるんですから。

――ほんとですね! 木村先生のキャラも似ています。

吉川:最初にお会いした時に、34年ぶりなので描ける自信がなかったから、今のタッチはこんな感じですって試しに木村先生を描いて持って行ったんですよ。そしたら木村先生が気に入ってくれて。これは、木村先生の強さを出したいなと思って描きました。

木村:嬉しい。実際にまんがに登場させてもらって、それは本当に、個人的にもジーンときましたね。

吉川:本当はもっと、他のキャラクターと絡ませたかったんですけど。ヒロキとかと。全然言ってこないなって思って。

木村:え? あれ? 編集さん??


古生物学者・木村由莉を作った古井博士の言葉

――木村先生が古生物学者を目指す中で、あるいは今振り返ったときに、このまんがのこのシーンに影響を受けたとか、ずっと大切にしているセリフとかがあれば教えてもらえますか?

木村:本当に、名言がたくさんあるんですよ。例えば、同じシリーズの別の本なんですけど(※)、古井博士の「古生物学者や考古学者の仕事はSFのような空想の世界を想像することじゃない!」ってセリフ。ちゃんと事実を集めていって、その中で考えられる最大の仮説を出していこうって言って、そこから歴史探偵が始まっていくんですよね。他には、古井博士と謎解きをしていたヒロキが、博士にそれはなぜわかるの?って聞かれても「図鑑に書いてあるから」としか答えられなくて、図鑑の知識だけで知った気になってたって反省するシーン。そんなヒロキに対して、古井博士は「はずかしがることはないさ。知らないくせに知ったかぶりするよりよっぽど勇気があってえらいよ」って言うんです。こういう言葉はどうやって考えたんですか?

吉川:たぶん、性格ですね。理屈っぽいんですよ。その手の話って、普段から常にしてますから。僕には子供がいるんですけど、自分の子供にもそんな感じで。子供がね、オムツを外して初めて自分でうんちをするという時に、人間の断面図を描いて、食べ物が口から入って食道から腸へっていう流れを見せて教えたりしてましたね。全然怖くないよって。そしたら「わかった」って言って初めてのうんちを自力でしたんです。そういうタイプなんですよ。

――吉川先生は、元々恐竜とか古生物が好きなんですか?

吉川:特にオタク的に好きというのはないですね。テーマを与えられたから、必死になって調べんたんです。

木村:それでこの言葉を紡げるのはすごいですね。化石ハンター展を見てくださった方はわかると思うんですけど、まさにこの本が原点なんです。図鑑に載っている情報がどこから来たのかって言ったら、すべて発掘から始まる。それを体感できる展示を作りたくて。それも全部、子供の頃に読んだこの本の言葉がずっと自分の中にあったからなんですよ。その言葉を大事にしながら、今仕事をしています。

吉川:僕は森羅万象全部に興味があるんです。宇宙とか、自然科学とか、考古学とかも。だから、テーマを与えられて、調べるうちにハマっちゃって、その中で自分で思ったことをキャラクターに言わせたって感じですね。

――吉川先生は、化石ハンター展には行かれましたか?

吉川:行きました。表現が正しいかわからないけど、居酒屋のメニューみたいな感じで楽しかったです。小さいもの、大きいもの、恐竜も哺乳類もあるし、地質学の話だったり。それをつなげているのがアンドリュースっていうイメージ。僕も以前は博物館によく行ったんですけど、こういう展示ってなかったよなって。

木村:化石ハンターっていう、発掘する人を中心に置いて、その研究を見せていくという発想の展示は、大掛かりなものでは多分初めてじゃないかなと思います。

吉川:木村先生じゃないとあれは絶対にできない。おもしろかったです。お子さん連れのお父さん、お母さんが、子供に説明しながらずっと展示を回っていて、それを後ろからいいなって思いながら見てました。

木村:そのお父さん、お母さんの中に、このまんがのファンもたくさんいますよ、きっと。

※『きょうりゅうのたまごをさがせ』は「まんが化石動物記」シリーズ(全10巻)の第2巻として1988年に発売。改訂版では、新たに「まんが 伝説の化石ハンター」シリーズとして、そのうちの3巻を刊行予定。


もしも古生物学者じゃなかったら…

――その化石ハンター展に関連した本をもう一冊ご紹介させてください。こちらも木村先生が監修を務めた『化石の復元、承ります。』(ブックマン社)という本で、展示の舞台裏で活躍する古生物復元師たちの本なんですよね。特に、メイン展示であるチベットケサイの復元の様子が、取材とインタビュー記事でまとめられています。

吉川:僕も読みました。おもしろかったです。怪獣映画の美術とかをやっていた人が作ってたりするんですね。印象的だったのは、鉄骨。骨格って骨で見ちゃうじゃないですか。でもよく考えたら骨だけで立つわけがないので、それを鉄骨が支えてるんだっていうのを初めて知りました。

木村:この本は、古生物学者以外の古生物の仕事をお見せしたいなって思って作ったんですよ。特別展って本当にいろんな人が関わってるんです。それをこの表紙の絵が表しているんですけど、発掘されて、クリーニングされて、復元が始まって、組み立てている人たちがいますよね。古環境を復元している人もちゃんとここにいて。CGで生体模型のモデルを作っている人もいます。で、このメガホン持ってるのが私なんですけど、これ何をしてるかって、旗振りしてるだけです。はい、あっち頑張って、こっち頑張ってって言ってるだけなんですけど(笑)。古生物が好きな子供たちはね、今は「古生物おもしろいな」でいいです。でも、親御さんは将来が心配だと思うんです。うちの子が学者になれるだろうか、就職先はどのくらいあるのだろうって。古生物の仕事、ちゃんとあります!

――読ませてもらって、「古生物が好き」の先に可能性がいっぱいあるんだなと思いました。この本はどのような経緯で企画になったのですか?

木村:ちょうど特別展を作っていたので、こういった仕事があることをうまく伝えるなら今しかないと思って、私からの持ち込みで本にしてもらいました。私が書いても私の言葉になっちゃうので、復元師たちの言葉をそのまま伝えるためにインタビュー形式にしています。第0章だけ、チベットケサイを復元する経緯を私の方で説明しているんですけど、ここは読んでも読まなくてもよくて、大事なのは第1章から。本当に、本人の言葉で聞こえてくるようなリアルなインタビュー記事になっているので、ぜひ読んでもらいたいですね。

吉川:デジタルの部分とアナログの部分があっておもしろいですよね。CGで復元したかと思ったら、毛を手でくしゅくしゅするとか。

木村:そうなんですよね。チベットケサイの生体模型の首の後ろの毛はすごいカールしてるんですけど、それはクシで癖づけして、その後に手で揉んでるんです。それはあのチベットケサイの家族の特徴、家族の証としてそういった癖をつけてもらったんですよ。

――私はもう大人ですけど、学生の時にこの本を読みたかったです。

木村:私も、今は古生物学者として指揮する立場なんですけど、これを読んでやりたかったなって思ったのが生体復元模型の仕事。毛をくしゅくしゅさせたかった(笑)。実際に工場に行くと、いろんなモデルが天井から吊られていて、これはあの時の、これはあの作品のっていろんなエピソードが出てきて、その話が全部おもしろかったんです。もし手先が器用で、立体的なデザインができるんだったら、これを仕事にしたかったなって。

――この本を読むと、また化石ハンター展に行きたくなりますね。

木村:チベットケサイの生体模型は、剥製と遜色ないくらい、本当に精巧に作ってるんですよ。あと、ツノが地面の雪をかく仕様になっていたり。骨格レプリカの方も、すごくこだわって作っているので、そのこだわりを『化石の復元、承ります。』でしっかり読んでもらって、それから展示で見ていただくといいと思います!

(聞き手:星詩織 / 編集:藤本淳子)

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profile
吉川豊
神奈川県生まれ。中央大学卒業後、永井豪のダイナミックプロダクションに所属したのちに独立。まんがを担当した書籍に『まんが化石動物記 全10巻』『まんが世界ふしぎ物語 全10巻』など多数。著書に、自身で世界中の謎を調べてまんが化した『まんが新・世界ふしぎ物語 全4巻』『まんがふしぎ博物館 全7巻』(以上理論社)などがある。

木村由莉
1983年、長崎生まれ。神奈川育ち。国立科学博物館地学研究部生命進化史研究グループ研究主幹。早稲田大学教育学部地球科学専修卒業。米サザンメソジスト大学地球科学科で修士号・博士号取得。フィールド・ベースの古生物学者にあこがれ、古生物学の世界に飛び込んだ。著書に『もがいて、もがいて、古生物学者!!』、監修した書籍に『ならべてくらべる絶滅と進化の動物史』、『恋する化石』(以上ブックマン社)など。


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