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希少な国産花火の華やかな輝きを次の時代へと引き継ぐ(福岡県みやま市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2021年7月号より)

 笑っているようなユーモラスな表情のクジラ、銀色のラインが輝く富士山。言われなければ、これが花火だとは気づかないかもしれない。

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モダンなデザインの花火。右から郷土玩具をテーマにした「どうぶつはなび 吹き上げる 鯨花火」、花富士(赤・青)(筒井時正玩具花火製造所)

「今まで花火にはなかったデザインの要素を取り入れ、大人にも楽しんでもらえるような花火を発信しています」と、みやま市で90年以上玩具花火を作ってきた筒井時正玩具花火製造所の筒井今日子さん。古くから花火作りの伝統と技術が根付く当地だが、生活の中で花火を楽しむ習慣がしだいに細っていくことに危機感を覚えていたという。夫で3代目の良太さんとデザインの研修に参加したのをきっかけに、新たな発想で作り始めたのが約10年前。

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炎を吹きながら身をくねらせる「どうぶつはなび 動く龍花火」

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配合された金属の種類によって火花の色が違う「吹き出し金属花火」

 なかでもこだわったのが、手持ち花火の代表ともいえる線香花火だ。江戸時代に作られ楽しまれてきた日本の線香花火は、昭和後期に安価な外国製品に押され、一度は途絶えかけた。国内でただ一軒線香花火を作っていた会社がとうとう廃業すると聞き、良太さんがそこで修業して技術のすべてを引き継いだ。

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昔ながらの東西の線香花火、スボ手牡丹(手前)と長手牡丹。スボ手牡丹を国内で作っているのは筒井時正玩具花火製造所のみ

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花火職人の筒井良太さん。より美しい花火をめざして火薬の配合を探求し続けている

 関西に多い持ち手が稲藁(いなわら)の「スボ手牡丹(てぼたん)」、関東で主流の紙を縒(よ)った「長手牡丹」のほか、四季の花をイメージしたオリジナルの線香花火も開発。火薬は宮崎県産の松煙(しょうえん)、紙は八女(やめ)市の手漉き和紙を草木染めにし、職人の手で一本一本丁寧に作り上げられた花火は工芸品のように美しい。

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贈り物としても人気の線香花火「花々」。ろうそくとろうそく立ても県産素材

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熟練の手つきで火薬を紙で包み縒り上げていく筒井今日子さん

「線香花火はワインのように〝熟成〟するんですよ」という今日子さんの言葉に驚く。火薬は調合してすぐよりも時間がたったほうが落ち着き、火花が安定するという。

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稲藁に火薬を付け素早く乾かす。気温や湿度にも影響される繊細な作業だ

 事務所に併設された花火ができる暗室で、線香花火に火をつけてみた。大きく膨らんでいく火玉を落とさないようドキドキしながら持っていると、やがてパチパチと音をたてて繊細な炎の花が開き、華やかな輝きを放った後に静かに燃え尽きる。短い時間の中に、はっきりとした起承転結があるのがわかる。

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スボ手牡丹の炎の花が美しく開く瞬間

 点火してから消えるまでの4段階には名前がつけられているという。「蕾」「牡丹」「松葉」「散り菊」――なんだか人の一生にも似ている。「いい花火は咲き方がきれいなんです」。良太さんのひと言が心に響いた。400年以上もの間人々に愛され続けてきた伝統の燈火(とうか)が、これからも美しく咲き続けることを願う。

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ぶどう畑が続く一角にある筒井時正玩具花火製造所

文=宮下由美 写真=阿部吉泰

ご当地◉INFORMATION
●みやま市のプロフィール
福岡県の南部に位置し、市域の多くは筑後平野に含まれる。温暖な気候風土で、米作、なすやセロリなどの栽培が盛ん。1952年、柳河藩主立花宗茂が文禄の役凱旋後、竹飯〈たけい〉八幡宮に煙火を奉納したのが当地の花火製造の始まりとされる。恒例の「みやま納涼花火大会」では約8000発もの花火が華やかに打ち上げられる(2021年は中止となりました)。
●問い合わせ先
筒井時正玩具花火製造所
☎0944-67-0764
https://tsutsuitokimasa.jp/
みやま市観光協会 
☎0944-63-3955
http://www.miyama-kk.com/

出典:ひととき2021年7月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。



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