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ジュエリーの一大産地・甲府で伝統の技を生かしたモダンな天然石を

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2022年3月号より)

 琥珀糖こはくとうのように透き通ってきらめく天然石のジュエリー。縞々の色のコンビネーションが美しいネックレスに惹かれ、思わず手に取る。表面はなめらかで一枚のプレートのよう。「石と石のつなぎ目がわからないよう丁寧に研磨けんましています」と「TOトウ LABOラボ」オーナーの大寄おおより智彦ともひこさん。三代続く「貴石彫刻オオヨリ」の代表で、甲州水晶貴石細工伝統工芸士でもある。

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透明な水晶にアメシストやアゲートなどのカラーストーンを組み合わせた、軽やかな印象のネックレス

 古くからきんさん一帯で水晶が産出していた甲府のジュエリーの歴史は、江戸時代に京都から職人を招き、研磨の技法を考案したことがきっかけで始まった。仏像や根付など水晶工芸で発展してきたその技術は、やがて貴金属加工の技術と結びつき、ジュエリーの一大産地となる。

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天然石のピアス。上から時計回りにK18シトリン、K18ブルートパーズ、K18アメシスト(66,000円、110,000円、66,000円、各片耳用)。石に地金を通す繊細なセッティング技法は「詫間宝石彫刻」の特許

 店の奥にある彫刻機で、大寄さんが水晶の研磨作業を見せてくれた。回転する金属のコマ*に研磨剤をつけ、石を押し当て磨いていく。「石は研磨剤に隠れて見えないので、指先の感覚が頼りです」。粒子の細かい研磨剤に何度か替えながら磨き続けると、不透明だった石が水のようにクリアに。

作業中 

「貴石彫刻オオヨリ」で代々使われてきた彫刻機で作業をする大寄智彦さん。カットした水晶を粗く削った後に、炭化ケイ素の研磨剤をつけて形を整えながら磨き上げる

 この研磨の効果を巧みに生かしているのが、エッジだけを透明に磨き、全体はりガラスのようなフロスト状に仕上げた水晶のリング。土台のゴールドがかどからは透け、面の部分では拡散して、全体がシャーベットのような柔らかな色に見える。

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水晶を彫り上げたリング。インタリオ(沈み彫り)という彫刻技法で泡を表現(左)研磨の工夫で光の屈折効果を生かしたリングは、水晶を知り尽くした作り手ならでは(右)

 自社ブランドを立ち上げ甲府のジュエリーの魅力を発信する大寄さん。「天然石を気軽に身につけてもらえるよう、現代に合うデザインを追求したい」と意気込む。

ピアス合成

ピアスに使われているアゲートは、青の微妙な色調にこだわって独自に染めたもの

 産地によって異なる石の個性を表現に生かしているのは、「詫間たくま宝石彫刻」代表の詫間康二こうじさんだ。工房の近くに新設したギャラリーには、さまざまな国の原石とともにジュエリーのサンプルが展示されている。「実際に石を見て、どんな製品になるのかを知ってもらえたらうれしい」と詫間さん。

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「一つとして同じものがない天然石の表情を生かしたい」という詫間康二さんも、甲州水晶貴石細工伝統工芸士。自然光の差し込むギャラリー(下写真)は、小さな博物館のような雰囲気

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 ユニークなのは、水晶に内包されるリチウムなどの物質をそのままに彫り込んだグラス。石がどの国のどんな地層にあったのかを想像させてくれる。石と金属とを張り合わせ同時に磨く「同擦どうずり」を施したルース(固定前の石)は、アートのような存在感。

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リチウム、カルサイト、クローライトなど石の内包物を景色として楽しむグラス

「彫刻、研磨、貴金属加工。伝統があるから挑戦ができる」(詫間さん)。地球が生み出す結晶の美をさらに輝かせる確かな技が、受け継がれ進化している。

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石と貴金属とを組み合わせた現代的なデザインが印象的。オーダーでリングやネックレスにできる

文=宮下由美 写真=阿部吉泰

ご当地INFORMATION
●甲府市のプロフィール

戦国時代に武田氏の拠点として開府し500余年、武田神社などゆかりの場所が点在する。奥秩父山塊、御坂みさか山塊、南アルプスに囲まれ、水晶を産出する火成岩地帯が広く分布。ぶどうの産地としても有名。
●問い合わせ先
TO LABO
☎055-232-1456
貴石彫刻オオヨリ
☎055-224-3762
詫間宝石彫刻
☎055-224-2039
山梨ジュエリーミュージアム
☎055-223-1570

出典:ひととき2022年3月号

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