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【京都・京北の納豆餅】稲作と発酵文化の国に生まれた幸せを感じる素朴な味わい

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2022年1月号より)

 こんがり焼けた半月形の餅の中身があんこではなく納豆と聞いて、一瞬戸惑ってしまった。が、ひと口頬張ると……「おいしい!」ほどよい塩気とほのかな砂糖の甘み、きな粉の香ばしさが納豆と絶妙にマッチし、後を引く。

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京北産大豆の納豆を餅で包み込んだ納豆餅「あみがさ」(山国さきがけセンター)。形が編み笠に似ていることから名付けられた

 京都駅から車で北へ約1時間。右京区京北けいほく地域は、納豆発祥の地のひとつと言われている。

「この辺りでは昔から田んぼの畔に大豆を植えていました。味噌や醤油、納豆を家庭で作るのは当たり前で、家には発酵部屋がありました」と教えてくれたのは、山国さきがけセンターの田中章仁あきひとさん。自給自足の生活の中で発酵食が根付いていた当地で受け継がれてきたのが、納豆餅だ。

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山国さきがけセンターの田中章仁さん。原料となる大豆も米も自社で育てている

「正月には家長が家族の分の納豆餅を作りました。囲炉裏で餅を焼いて丸く伸ばし、塩や砂糖で味付けした納豆を包みます。顔の大きさほどもある納豆餅を、硬くなれば火であぶりながら三が日の間食べていましたね」(田中さん)

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ふっくらと蒸し上がった納豆餅。できたてを熱いうちに急速冷凍して販売する

 郷土の味を広めようと商品化された納豆餅「あみがさ」は、10センチほどの食べやすいサイズ。京北の特産品として認知度も高まり、イベントでは温めて出す「ホットあみがさ」が人気だ。

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納豆餅「あみがさ」(右)は砂糖入りと砂糖なしの2種類がある。納豆をつき込んだ切り餅タイプ(左)も人気

 森林に囲まれ「森の京都」とも呼ばれる京北は、古くから林業で栄えてきた。平安京造営の際には切り出された木材がいかだに組まれ、桂川を下り都へと運ばれた。

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北山杉の森林に囲まれ上桂川が流れる京北の里

「筏師や山仕事の弁当に、ロール状の納豆餅が重宝されたようです」と蕎麦店「京蕪庵きょうぶあん」の田尻和人かずとさん。同店では「京北の一品」として納豆餅を提供している。

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「京蕪庵」の焼き納豆餅。岩塩、きな粉、みたらし風の蜜が添えられ味の変化が楽しめる。持ち帰り用もある

 幕末の戊辰戦争を戦った山国隊*の農兵も食べていたと伝わる納豆餅。タンパク質やビタミン豊富な納豆と高カロリーで腹持ちのいい餅を組み合わせた最強のホットスナックは、農山村の暮らしの必需品であり、ハレの日の楽しみでもあった。素朴でどこかほっとするその味は、稲作と発酵文化の国に生まれた幸せを感じさせてくれる。

*戊辰戦争で新政府軍として出陣した山国村(現・右京区京北)の農兵隊

文=宮下由美 写真=阿部吉泰

ご当地INFORMATION
●京北のプロフィール

京都市右京区の北部に位置し、細野、宇津、周山、弓削ゆげ、山国、黒田の6地区で構成される。総面積の9割以上を森林が占め、平安建都以来の木材供給地、米や野菜の生産地として都の生活を支えてきた。地域を縦断する桂川上流域の上桂川は、全国屈指の鮎釣り河川として知られる。
●問い合わせ先
山国さきがけセンター
☎075-853-0572
https://keihoku-sakigake.net/
京蕪庵
☎075-854-0030
https://keihoku-m.com/

出典:ひととき2022年1月号


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