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渓谷に咲き乱れる梅の競演(奈良市月ヶ瀬尾山)

「名勝」とは、日本における文化財の種類の一つ。本連載では国指定名勝の庭園、峡谷、海浜、瀑布などを、臨場感あふれる撮りおろし写真で紹介します。旅に出たような気分で、日本の美しい景勝地の数々をお楽しみください。(ひととき 2019年2月号「名勝アルバム」より)

 五月川(さつきがわ)の渓谷が一望できる「一目八景」に立つと、眼下に紅白の梅が咲き乱れていた。谷の先に目を移せば、無数の梅樹が両岸に立ち並ぶ。優美で壮大な景色を前に、夢見心地のまま時を忘れて立ち尽くした。

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 江戸時代、この地域は紅花染めの重要な材料である烏梅(うばい)の生産地で、約十万本の梅樹が生育していた。昭和30年代、五月川にダムの建設が決まると、古木を別の場所に移植。同時に村内各所にも梅樹を植えた。新たな月ヶ瀬梅林の誕生である。その後、村人に愛着を持って育てられた梅樹は大らかに成長し、渓谷との比類なきハーモニーを生み出している。

「梅林は地元の人間の誇り。管理保全や育成だけでなく、子供たちに梅の魅力を知ってもらおうと小学校で授業を行うなど、この絶景を末永く楽しめるように日々活動しています」と「月ヶ瀬梅の資料館」館長の東正彦さん。

 梅林が再生して、およそ半世紀。今年も一万三千本の梅が競い合うように花開く。

蛭子 真=写真

◉名勝指定 大正11年(1922)3月8日
奈良市月ヶ瀬尾山
(問)月ヶ瀬観光協会
☎0743-92-0300
https://tsukigase-kanko.or.jp/
月ヶ瀬梅林は、兼六園(金沢)、奈良公園と並び、国内の名勝第1号。渓谷沿いに梅が咲く様から「月ヶ瀬梅渓」とも呼ばれる。毎年、見ごろを迎える時期に「梅まつり」が開催され、多くの観光客で賑わう。

出典:ひととき2019年2月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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