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自分らしさが大切と気づいた(歌手・土岐麻子)|わたしの20代|ひととき創刊20周年特別企画

旅の月刊誌「ひととき」の創刊20周年を記念した本企画わたしの20代。各界の第一線で活躍されている方に今日に至る人生の礎をかたち作った「20代」のことを伺いました。(ひととき2022年1月号より)

 大学時代は、バンドとアルバイトにはまっていました。サークルで仲間もでき、みんなで演奏、合宿、ライブ。居場所ができて、すごく楽しかった。アルバイトは、本屋さんや大学の学食、コンサートの会場案内、美術展の監視員、株主総会の席案内などなど、いろいろな世界の裏側をのぞけました。お金が欲しいというより、趣味でしたね(笑)。

 でも、自分が何者かは、相変わらずわからなかった。バンドでプロになれるとは思っていませんでした。転機になったのは、就活のストレスで、ふと、ふだん絶対やらない行動をしたくなり、沢田研二さんのミュージカルのバックバンドに応募したことです。選考では立ってギターを弾くのが課題だったのに、「今日は納得のいく演奏をしにきました」なんてことを言って、いつものように座って弾きました。結局、不合格でしたが、審査員の方が声をかけてくれて、歌のデモテープを送ることになりました。サークルの後輩に手伝ってもらって、大好きなキャロル・キング*を歌ったら、たまたまそれを聴いた先輩のバンドにボーカルとして誘われ、デビューにつながりました。先輩に「うまくないですよ」と言ったら、歌唱力じゃなく同じ感覚でもの作りがしたいと言われたのは、うれしかった。私も同じことを考えていたからです。

*1960年代から活躍するアメリカの伝説的な女性シンガーソング・ライター

 デビュー後、順風満帆ではないこともありました。20代半ばは、ちょうどインターネットが普及したころで、ネット上で批判されたりもして傷つき、自信をなくしました。誰にも言えなくて体を壊し、1年くらいかけて、やっと自分らしくすればいい、人に頼ろうと思って、回復しました。

 私の20代は、要所要所で悩み、最後に開き直って自分らしく動いた時に、道が見えたんだなあと思います。デビューしたとき、父(サックス奏者の土岐英史ときひでふみさん)から、ひとつだけアドバイスをもらったんです。「これからいろんなことを言われるだろう。でも、自分に必要なことは自分で気づくはず。無責任な人の言葉に惑わされなくていい」。今はその意味がよくわかります。もしも、人生に迷っていた20代の自分に声をかけられるなら、「お父さんが言ってることはホントだよ」と教えてあげたいです。

談話構成=ペリー荻野

2201_インタビュー01*

1997年に結成したバンド、Cymbalsのボーカルとして活躍していたころ

土岐麻子(とき・あさこ)
歌手。1976年、東京都生まれ。3人組のロックバンド、Cymbals〈シンバルズ〉のボーカルとして活躍した後、ソロ活動をスタート。CM音楽やナレーションなどで、浮遊感のある声質、優れた歌唱力を披露している。約2年ぶりのオリジナルアルバム「Twilight」(写真)を11/24に発売。2022/1/22からアルバムツアーを全国6カ所にて開催

2201_インタビューD03*

出典:ひととき2022年1月号


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