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【ロトトの靴下】一度はいたら癖に!お洒落で可愛いふかふかソックス

今日も日本のあちこちで、職人が丹精込めた逸品が生まれている。そこに行けば、日本が誇るモノづくりの技と精神があふれている。これは、そんな世界がうらやむジャパンクオリティーと出会いたくててくてく出かける、こだわりの小旅行。さてさて、今回はどちらの町の、どんな工場に出かけよう!(ひととき2018年4月号 「メイドインニッポン漫遊録」より)

ソックスはお洒落の名脇役

 靴下を下に見てはいけません。一足の靴下から、その日に着る服を選ぶこともあるし、コーディネートに合わせて、靴下の色や柄を遊んでみたり。ごついブーツを履いた時には厚手のスポーティな靴下、華奢なドレスシューズの時には薄手のエレガントな靴下。靴下は床上30センチにその人らしさが出せる、お洒落の名脇役なのです。たかがソックス、されどソックスなのであります。

 筆者のお気に入りは、「ロトト」という日本の新鋭ソックスブランドが作るソックスである。実を言うと、日本製の靴下はあまり持っていない。足首に痕がつくほどしっかりしすぎたリブの穿(は)き口。色褪せてくると貧乏臭い地味な色柄。よくあるブランドのワンポイントマーク入りのデザイン。とまぁ、残念ながら日本製の靴下は、ファッションの脇役としては大根役者ばかりなのである。

 しかしロトトのソックスは違う。とことん穿き心地と素材にこだわり、デザインも海外の有名ソックスブランドと比べてもひけをとらない。モノにうるさいセレクトショップでも扱われていることから、クオリティーの高さがわかる。ようやく日本製の靴下にもお洒落の名脇役が出てきたのだ。ちなみにロトトというブランド名の意味は……。それはまたあとでお教えしましょう。

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ざっくりとした味わい、高いフィット性・耐久性・速乾性があるもの、ワッフル素材など、デザインや機能が多彩なロトトのソックス。こちらは税別1,800円から

メイドイン「靴下の町、広陵町」

 ということでワレワレが訪れたのは、奈良県の北西部に位置するまわりを田畑に囲まれたのどかな盆地の町、広陵町(こうりょうちょう)である。日本の靴下メーカーの工場の多くはアジアに拠点を移してしまったが、奈良県は靴下の生産量が日本一で、全国の4割を占める。なかでもここ広陵町は「靴下の町」として知られている。ロトトのソックスもこの町で作られているのだ。

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いくつもの古墳がある馬見丘陵公園。広大な園内は歩きでがあります

 広陵町で靴下作りが始まった歴史は古く、明治43年(1910)、吉井泰治郎(たいじろう)という人物がアメリカ視察から靴下編機を持ち帰ったのがきっかけである。もともとこの地域は江戸時代より農家の副業として大和木綿や大和絣という織物が盛んだったが、時代とともに衰退していき、その代わりとなる産業として靴下の製造が広がっていったのである。

 「ですから広陵町では、靴下は編み物なのに〝靴下を織る〟と言うんですよ」

 そう話すのは石井ダイスケさん、36歳。

 ブランド設立は平成26年(2014)とまだ新しいが、「一生愛せる消耗品」を基本理念に掲げて、手の込んだソックスを次々と生み出しているロトトの若きデザイナーである。石井さんは広陵町のお隣、大和高田市で生まれ育った。ここも靴下の製造がさかんな町で、子どもの頃には、繁忙期になるとよく母親が靴下の出荷の手伝いをしていたという。

 ロトトのソックス作りは、デザイナーの石井さんが何度も広陵町の靴下工場に出向いて職人たちと話し合うことから始まる。

 「仲間とロトトを立ち上げる時に、ソックスのブランドで世界と勝負したいと決めていました。知らない世界ではないので、職人さんとも話がしやすいんです」

 石井さんがまず案内してくれた工場は、創業昭和2年(1927)の「創喜(そうき)」。昔ながらの稀少な旧式の編機を使って職人が靴下を編んでいる老舗の靴下メーカーである。

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昔ながらの旧式靴下編機が稼働する創喜の工場。ゆっくりと編み上げるので編み地がきれいに仕上がって肌触りもいい

 「靴下の編機にはたくさんの種類があって、うちは昔ながらの旧式の編機でゆっくりと編んだ、ふんわりとした厚めのローゲージ※のソックス作りを得意としています」

※針数のことで、靴下などニット製品の網目の粗さ・細かさを表す単位。その数によって主に「ハイ」「ミドル」「ロー」の3種類に分けられる

 そう語るのは、創喜の5代目社長の耕平さん。石井さんとは同世代。若い感性でメイドイン広陵町のソックスを世界に広めていきたいという思いに共感して、細かい注文にも応えてくれる頼もしい若き靴下職人だ。

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石井ダイスケさん(左)と創喜の5代目社長出張耕平さん(中)に話を聞く筆者

 工場を見学させてもらうと、「ロッソ」という作業は、なんと地元のお母さんたちが一足一足丁寧に手でつま先を縫って仕上げている。出来たばかりのロトトのソックスを見せてもらう。これです、これこれ。太畝(ふとうね)のリブのローゲージソックスって英国製ではよくあるけども、日本製はなかなかなかったんですよ。

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最後の仕上げは1足1足手作業で行われている

 次に石井さんが案内してくれたのは、広陵町で長くスポーツソックスの製造を手掛けている「ウエダ」の工場。こちらはコンピュータ化した最新式の靴下編機が倉庫のような広い工場にズラリと並んでいて、カシャカシャと自動で靴下を次々と編んでいる。

「いやぁ、初めて石井さんが靴下を作ってほしいと当社に訪ねてきた時は驚きましたよ。だってうちは野球用やバスケット用などスポーツソックスを作っている会社ですからね」

 そう言って工場を案内してくれたのは部長の浦岡良美さん。しかし浦岡さんもまた石井さんの「スポーツソックス用の編機でお洒落なカジュアルソックスを作れないか」という発想に共感して社長に提案、最初は面白がって作ってみたのだが、今や主力製品である。

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工場を案内してくれるいかにも会社の部長さんといった感じの浦岡良美さん

 それもこれも、石井さんが職人さんたちとの話し合いを一番大切にしているからこそ、できるのであろう。だからロトトのソックスの製品タグには「日本製(奈良県産)」と、わざわざ産地名まで記入されているのだ。

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ウエダのコンピュータ化された最新の編機。針とギアの組み合わせだけで、ほぼ完成品の状態で靴下が編み上がる

 あ、そうだそうだ、石井さん、ブランド名のロトトの意味って何ですか?

「漢字の〝足〟を分解して、カタカナにしてロとトとトです(笑)」

いであつし=文 阿部吉泰=写真

いであつし(コラムニスト)
1961年、静岡県生まれ。コピーライター、「ポパイ」編集部を経て、コラムニストに。共著に『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)など。
●株式会社ジャーミネイション
奈良県大和高田市三和町3-2
☎0745-43-9420
http://www.rototo.jp/
●株式会社創喜
奈良県北葛城郡広陵町疋相6-5
☎0745-55-1501
http://www.souki-knit.jp/
●株式会社ウエダ
広陵町笠222-1
☎0745-55-2121

出典:ひととき2018年4月号
※この記事の内容は掲載時のもので、価格など現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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