【クラフトシードル】りんごの魅力がぎゅっと詰まった きらめく金色のしずく（青森県弘前市）
日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね！」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね！」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。（ひととき2021年12月号より）
日差しをたっぷり浴びて育ったりんごが色づき収穫を迎える頃、弘前の街は活気づく。畑面積の6割超をりんご畑が占める弘前市は、全国一の生産量を誇るりんごの街。日本シードルの発祥の地でもあり、現在は「弘前ハウスワイン・シードル特区」に認定され、りんご農家などが醸造するクラフトシードルが人気を集めている。
（上）津軽富士とも呼ばれる美しい姿の岩木山。麓に広がるりんご畑の景色は弘前ならでは （下）真っ赤に色づき収穫を待つ「もりやま園」のりんご。手間と時間の結晶だ
当地で100年以上続く「もりやま園」のりんご畑で、4代目の森山聡彦さんが「テキカカシードル」を注いでくれた。金色の液体がグラスの中で輝きながら泡を盛り上げる。爽快な喉越しの後にふわっとりんごが香り、後味はさっぱり。「泡立ちとキレのある、ビールのようにゴクゴク飲める甘くないシードルをめざしました」
食中酒にもぴったりの「テキカカシードル」（もりやま園）。りんご果汁を発酵させて造るシードルは、りんごの種類やブレンド、醸造方法によって味わいもさまざま
「テキカカ」は、栽培の過程で未熟な果実を摘み取る「摘果」からのネーミング。捨てるしかなかった摘果りんごの渋みや酸味を味わいに生かせないかと、完熟りんごとのブレンドや酵母の選定を繰り返し、3年をかけて完成にこぎつけた。「この味は他にはないと思います」（森山さん）
摘果りんごは完熟りんごよりポリフェノールが豊富。「捨てるのはもったいない」と森山聡彦さん
りんごの収穫体験ができる人気スポット「弘前市りんご公園」にある「弘前シードル工房kimori」は、木陰から覗く白い三角屋根が印象的。「りんご畑に人が集まり、シードルが人と人をつなぐきっかけになれば」と代表の高橋哲史さん。
［上］りんごの色づきを確認する高橋哲史さん ［下］工房ではシードルの試飲ができるほか、さまざまなイベントも開催している
※新型コロナウイルス感染症の影響により現在は休止中。詳細はお問い合わせください
グリーンのボトルが爽やかな「kimoriシードル」は、タンク内2次発酵で自然に溶け込ませたやわらかな炭酸と、無濾過製法によるりんごジュースのような果実感が魅力。「シードルは畑から生まれる『農産品』。その年ならではのおいしさを楽しんでほしい」という高橋さんの言葉には、りんご農家としての実感がこもっている。
甘味と酸味のバランスがいいふじをメインに使用した「kimoriシードル」。ドライ（左）は魚介などの料理に、スイートは肉料理やバーベキューに合わせて
弘前という土地と食材にこだわるシェフの笹森通彰さんが醸すのは、料理とのペアリングを追求したシードルだ。5種類のりんごをブレンドし瓶内2次発酵させた、シャンパンのように繊細な「葉とらずりんご サスィーノシードル」は今年の新作。笹森さんが腕をふるう「オステリア エノテカ・ダ・サスィーノ」の料理に合わせれば、弘前の夜が特別な思い出になりそう。
シードルに合わせるのは「マハタのソテー シードルと自家栽培のハーブのソース」。マハタはシェフの笹森通彰さん（写真下）が自ら釣ったもの
ほかにも、りんごの品種や収穫時期にこだわったシードルなど、バリエーションはさまざま。郷土を愛する作り手たちの思いが、それぞれのボトルに溶け込んでいる。
「弘前れんが倉庫美術館」併設の「CAFE&RESTAURANT BRICK」では店内醸造のシードルが味わえる。飲み比べセットも人気
文＝宮下由美 写真＝阿部吉泰
ご当地INFORMATION
●弘前市のプロフィール
青森県西部に位置し、弘前藩の城下町として発展した津軽地方の中心都市。明治以降、教育都市として私立学校を整備し外国人教師を招聘した際に数多く造られた洋風建築が今も残っている。りんご栽培は1877年にはじまり、現在は生産量全国一。
●問い合わせ先
もりやま園
☎0172-78-3395
https://moriyamaen.jp/
弘前シードル工房kimori
☎0172-88-8936
http://kimori-shop.com/
オステリア エノテカ・ダ・サスィーノ
☎0172-33-8299
https://dasasino.com/
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