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奈良移住(未だ未定) みうらじゅん

ひととき11月号の特集「古都もみじ 仏像の奈良、庭の京都」より、イラストレーターのみうらじゅんさんにお寄せいただいた奈良の仏像にまつわるエッセイを転載します。本誌では、思わず息をのむような臨場感ある美しい紅葉のグラビアが満載です。ぜひ、この機会にお求めください。

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 奈良、薬師寺の元・住職、高田好胤さんの著作『心』(徳間書店)に、挟み込まれていたアンケート葉書。その感想って欄に、当時、小学生だった僕は、〝大変、仏教が分かりやすかったです〟と書き、ポスト投函したこと。

 数カ月経ち、すっかり忘れていた頃に、近所のおばちゃんが「純ちゃんの名前が新聞に出てるでぇ!」と、教えに来てくれた。

 それは好胤さんの2作目の著作『道』の広告記事で、〝小学生からお年寄りまで読まれています!〟の筆頭として、僕のその感想文が使われていたのである。

 これが、初活字デビュー。すごく嬉しくて、いつか好胤さんにお会いして、将来は僧侶に成ると決めたのだった。

 仏像が突如、マイブームとなった小4の時。地元・京都は元より、休みの日にはよく、奈良に出掛けて寺巡りをした。そして、仏像を前に〝カッコイイ……〟と呟く、学校でもちょっと変わり者扱いな少年。

 だから、うちの家が寺でなかったことがとても悔しかった。この活字デビューは足掛かり。さらに拝観を続け、当然仏教にも精通し、最終的には奈良の寺に移住と、夢は広がるばかりだった。

 後に、京都の仏教系中学・高校と進学したが、煩悩まみれな青春ノイローゼには到底、勝てなくて、すっかり僧侶の道を忘れ去っていた。

 それが再燃したのは30代の半ば。仏友(仏像のカッコ良さを共有できる友)、作家のいとうせいこう氏との出会いがあったからで、今では著作『見仏記』(KADOKAWA)は8冊目。「新TV見仏記」(関西テレビ)も20年以上続けさせて頂いている。

 当初は、かなりアヴァンギャルドな発言やイラストで仏教関係者からお𠮟りを受けたこともあったけど、2人が目論んでいたのは堅苦しくなく、誰にでも分かりやすい仏像、または仏教解説。ま、袈裟も着てないくせにそれは大袈裟か。要するに、仲いい2人が楽しみながら寺巡りする膝栗毛である。

 長年、やっているとついつい得意げに、仏像ウンチクも飛び出しがちだけど、そこはあくまで門外漢の立場から。知ることより、感じることの方が大切だと説く。

〝いつ、移住すんのよ? 奈良へ〟

 それにより再燃した奈良ブーム。仏ゾーンでグレイト余生を――。吉野の金峯山寺辺りもいいな。毎日、あの巨大蔵王権現が拝めるのも夢だけど、どうなの? 日常生活のことを考えると、やはり〝ならまち〟がいいかもな。

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吉野・金峯山寺の秘仏本尊・蔵王権現は、忿怒〈ふんぬ〉の形相をした迫力あるお姿。11/30まで特別拝観実施中 写真提供=金峯山寺

〝ダメじゃん。そんな煩悩がある限り、いつまでたっても奈良には行けないよ〟

 だよね……。それに今はコロナ禍の世の中。仕方ない。逢えない時が愛、育てるのさ。と、僕は奈良の仏像を心に想って今日も生きているのである。

文=みうらじゅん

みうら じゅん
イラストレーターなど。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。1997年、「マイブーム」で新語・流行語大賞受賞。仏教伝導沼田奨励賞受賞。いとう氏とともに仏像を巡った共著『見仏記』シリーズは、仏像ブームを巻き起こす起爆剤となった。

出典:ひととき2020年11月号

トビラ

特集:古都もみじ 仏像の奈良、庭の京都
古都のみごとな紅葉を見に行くなら、仏像や日本庭園の特別拝観とも時期を合わせ、その取り合わせも旅の楽しみとしてご紹介しようという企画です。 第1部では、みうらじゅんさんのエッセイと、写真家・三好和義さんの御案内で奈良の仏像の魅力をご紹介します。また、三好さんと仏像好きアイドル・和田彩花さんの仏像対談も収録。第2部では、京都の名庭をご紹介。エッセイは、京都ご出身の綿矢りささん。また、著作『しかけにときめく京都名庭園』等が話題の庭園デザイナー・烏賀陽百合(うがやゆり)さんに、日本庭園の鑑賞術を教えていただきます。

◉エッセイ 奈良移住(未だ未定) 文=みうらじゅん
◉奈良 仏像とあわせて巡りたい紅葉
◉写真家 三好和義さんが撮った室生寺
◉三好和義さん×和田彩花さんの仏像談義「やっぱり仏像が好き! 」
◉仏像の奈良[案内図]
◉エッセイ 紅葉の余韻=綿矢りさ
◉京都 日本庭園とあわせて巡りたい紅葉
◉庭園デザイナー 烏賀陽百合さんに学ぶ「日本庭園の楽しみ方」
◉庭の京都[案内図]

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