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【八尾和紙】薬包紙から発展した丈夫な手漉き和紙 (富山県富山市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2021年1月号より)

「最初はね、こんなにカラフルじゃなかったんですよ」と話すのは、富山市八尾町(やつおまち)で色とりどりの型染め和紙製品を作り続けている桂樹舎(けいじゅしゃ)の2代目・吉田泰樹さん。衰退していた町の和紙産業を盛り上げようと、1960年(昭和35年)に父・桂介さんが和紙加工会社を立ち上げたのが桂樹舎の始まりだ。

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八尾の諏訪町本通りは「日本の道100選」のひとつ

 立山連峰からの良質な水に恵まれた当地では農業が盛んに行われてきたが、江戸時代になると富山藩が売薬業を推奨。薬を包む薬包紙(やくほうし)が求められ、その製紙技術は後に国の伝統的工芸品に指定される越中和紙の発展にも寄与した。越中和紙のひとつ、八尾和紙も日々の生活の中で使われてきた和紙ゆえ、厚手で丈夫なのが特徴だ。

 桂樹舎が手がけているのは、八尾和紙の伝統美を受け継ぎながら、型染めを施した民藝調の和紙。

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人間国宝・芹沢銈介のデザインを復刻したカラフルな2021年版のカレンダー

「きっかけは父が染色工芸家の芹沢銈介(せりざわけいすけ)先生と出会って型染め技法を学んだことです。この出会いなくしては、色鮮やかな型染めカレンダーは生まれませんでした」。現在では吉田さんが、父の遺した200~300もの型を大切にアレンジしながら使っているという。

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型染め和紙の小物類は御朱印帳や文庫箱などが揃う

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日本人に多い苗字を図案化したという、遊び心たっぷりの苗字封筒。手前が「田中」で奥が「鈴木」

 それにしても、なぜ布ほど強度がない和紙に型染めを施すことができるのだろうか? その秘密は、漉き上げた後の紙に水で溶いた蒟蒻糊(こんにゃくのり)を塗るひと手間にあった。そうすることで紙質が安定し、丈夫になるのだ。

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和紙のクッションカバーは使い込むことで味わいが増す

 工房では職人たちが分業で手際よく作業していた。糊を乾かしたら刷毛(はけ)に顔料を含ませて全体を染め、ひと差しひと差しリズミカルに色をのせ柄を描いていく。そうして染め上がった和紙を水に入れて糊を落とすのだが、この瞬間にはじめて鮮やかな色柄が姿を現す。

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色をのせる色差しの作業はこの道30年の職人が担当

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色差し後、糊を落としたら干場で乾燥させる。その際、染めた部分に影響が出ないよう、余白が多い方を上にして吊るす

 昔は全体的にもっと渋い色合いだったという型染め和紙は、現代の感覚に合わせて色調を変え、モダンな表情へと進化した。ペーパーレスの時代といわれるけれども、手作りの和紙は、人々の心に温もりを届けてくれる。

佐藤美穂=文 佐々木実佳=写真

ご当地◉INFORMATION
●富山市のプロフィール
江戸時代に加賀藩の支藩として富山藩が成立。2代藩主の前田正甫〈まさとし〉が「越中売薬」の基礎を築き上げ、薬の梱包材である和紙作りや、明治期以降はガラス製造も産業として開花した。富山平野の北側には約500種の魚介が生息する富山湾が広がり、今なら旬を迎える魚介類が最も多い冬ならではの味覚が堪能できる。
●問い合わせ先
桂樹舎
☎076-455-1184
https://keijusha.com/

出典:ひととき2021年1月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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