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【紀州の棕櫚文化】しなやかだけどコシがある棕櫚製品(和歌山県海南市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2018年12月号より)

 水に強く、耐久性のある棕櫚(シュロ)の樹皮は、古くから縄やたわし、箒(ほうき)など生活用品の素材として使われてきた。なかでも紀州産の棕櫚は良質なものとして高値で取引され、この地にも棕櫚製品を作る技術が根づいた。「いまは杉林になっているところも、見渡すかぎり棕櫚林だったね」と語るのは、和歌山県内で今も棕櫚縄づくりを続ける西脇直次(ただつぐ)さん。

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高田耕造商店の棕櫚製品の数々。たわし、ボディブラシ、ささらは繊維が繊細な国産棕櫚、箒はコシの強い中国産棕櫚を使用

 昭和30年代、安価な化学繊維や外国産パームヤシが入ってきたことで、紀州の棕櫚産業は一気に衰退。棕櫚の林は伐採され、かわりに杉や檜が植えられていった。

「今、棕櫚のたわしや箒として流通しているものは、海外産の棕櫚なんです。国産のものはまず手に入りません。品物によっては海外産のほうが向いているものもありますが、もう一度紀州の棕櫚で作ってみたい。そう思い立って、紹介してもらったのが西脇さんだったんです」。海南(かいなん)市でたわし等を製造販売する高田耕造商店の三代目・高田大輔さんが西脇さんの家を訪ねたのは、今から10年前のこと。わずかに残っていた棕櫚山を手入れし、質のいい樹皮が採れるようになるまでには、長い年月と大変な労力がかかった。「ある日、西脇さんが採れたばかりの樹皮を見せてくれたんです。それがびっくりするくらいきれいだった。深い赤茶色で、しなやかだけど、しっかりコシがある。あっ、これが本物の紀州の棕櫚なんだと思いましたね」

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棕櫚皮を切り出す西脇直次さん

 棕櫚山の再生をめぐっては、西脇さんとの衝突もあったという。「商品を売りたいんか、山を守りたいんか、どっちなんや」。西脇さんの厳しい言葉に、大輔さんは自ら山に入る決心をした。今も棕櫚の幹に組んだ足場の上で、〝師匠〟とともに樹皮を切り出す作業が続く。「つい最近、海南市の隣町にあるこの山里が、実は祖父が生まれ育った場所だったと知ったんです。この棕櫚があったおかげで、僕が生まれてきた。ここが僕のルーツ。だからこそ、この山を大切にしていかないと」と語る大輔さん。「大ちゃん、きっと棕櫚の神さんのお導きやで」。樹皮を切る師匠の顔がほころんだ。

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高田大輔さんも棕櫚に足場を組んで作業を行う

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工場では、大輔さんの父・英生さんがたわし作りを担当。棕櫚の繊維を丁寧に揃えて手で形を整える

文=秋月康 写真=打田浩一

ご当地◉INFORMATION
●海南市のプロフィール
和歌山県北部の沿岸に位置する海南市は、熊野地方へ向かう交通の要衝として栄えてきた。京の都から熊野へと続く熊野古道の「紀伊路」が南北に通り、歴史的な文化財や国宝が数多く残されている。室町時代から続く漆器をはじめ〝ものづくり〟が盛んなところで、良質の棕櫚を使った海南のたわしや箒は、かつて各地で愛用されていた。
●海南市へのアクセス
新大阪駅から特急「くろしお」で約1時間10分、海南駅下車
●問い合わせ先
高田耕造商店(株式会社コーゾー)☎073-487-1264
https://takada1948.jp/

出典:ひととき2018年12月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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