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日本一の手袋の産地で生まれる上質なぬくもり

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2021年11月号より)

 ダダッ、ダダッ……窓越しに瀬戸内海を遠く望む工場に、ミシンの音が響く。音が「ダダッ」と小刻みなのは、作られているのが小さなパーツからなる手袋だからだ。

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福田手袋 [右]縫い代わずか2ミリという手袋の縫製は極めて難しく、独り立ちまで3年はかかるという [左]一点一点、蒸気で熱して仕上げていく

「手袋は細かな作業が多くて、縫製がとても難しいと言われますが、福田手袋の職人さんたちはベテラン揃い。本当にき心地のいい手袋なんですよ」

 まちがいではない。香川では手袋を「履く」という。これは、製造当初、手袋を手靴てぐつと呼んでいたことの名残だとか。

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tet.の縫製手袋を製造する老舗。工場には職人さんたちの笑い声が絶えない 

 創業108年、東かがわ市の老舗手袋メーカー、福田手袋の工場でそう話すのは、tet.テトの松下ふみさん。「温暖な瀬戸内でなぜ手袋?」と尋ねられることも多いそうだが、東かがわ市は、国内の手袋生産90パーセントのシェアを誇る、日本一の手袋の産地なのだ。

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「生まれ育った東かがわの手仕事の良さを知ってほしい」との思いでスタートしたtet.。左から代表の宮本健哉さん、松下文さん、岡﨑宏輝さん

 その歴史の発端がまた面白い。明治中頃、当地の僧侶が身分違いの女性と駆け落ち。生計を立てるために、繊維の街、大阪でメリヤス生地を用いた手袋製造をはじめたことがきっかけという。その技術が紆余曲折を経てUターン、東かがわは手袋の産地として発展した。

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とろけるような柔らかな肌触りのカシミヤミトン。無縫製のホールガーメント機で一点一点作られている

 しかし、最盛期に約300社を数えた手袋関連会社も今や100社程で職人の高齢化も進む。そんな地場産業に新風を、という情熱から生まれたのがtet.だ。手袋のラインナップは200種以上にものぼる。

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[右]美しいシルエットと着け心地の良さを実現したカシミヤジャージー手袋 [左]手に心地よくフィットする紳士用のカシミヤ手袋

「東かがわの手袋は、ファッション手袋をはじめ作業用、スポーツ用と多種多様で、どれもハイクオリティーなところが特長」。その魅力を地元の「オールスター」によって広めたいと願う松下さんは、各社の得意分野を徹底的に研究。「単にデザインするだけではなく、それぞれのメーカーさんの一番いいところが詰まった手袋に」との信念で、多彩なオリジナル製品を企画。縫製が得意な福田手袋、ニットの編み手袋が得意なヨークスなど、tet.のブランド名とともに、各社の名を出した「東かがわ産手袋」として、展開しているのだ。

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ヨークス [左]tet.のニット手袋を製造しているヨークスの工場では、約40年前の編み機が現役で稼働中 [右]糸処理などの繊細な工程は職人の手仕事

 ずらりと並んだ手袋をひとつずつはめてみる。ふんわり優しく手を包むカシミヤのミトン、絶妙なフィット感とシルエットの美しさを兼ね備えた縫製手袋……今年はいくつか揃えて、その日の気分で手袋を「履いて」みようかな――そう思うと、冬の寒さが楽しみになってきた。

手袋3点

[左]若い羊から刈り取った柔らかく弾力性のあるウール「ウィナーズ」を用いた手袋。柔らかさと張りを兼ね備えた風合い [右上・下]楽しいデザインが揃うキッズ用手袋

文=久保恵子 写真=武藤奈緒美

ご当地INFORMATION
東かがわ市のプロフィール
香川県の東端に位置する東かがわ市。温暖で雨の少ない気候で、古くは「讃岐三白さぬきさんぱく」と呼ばれる砂糖・塩・綿の産地として知られた。東部の引田ひけたは中世以降、東讃とうさん随一の良港として栄え、往時の賑わいを伝える風情ある街並みが残る。また、昭和初期に日本で最初にハマチ養殖の事業化に成功、現在も市の基幹産業のひとつとなっている。
●問い合わせ先
tet. 
☎0879-25-3010
https://store.te-t.jp/
福田手袋
☎0879-33-3607
ヨークス
☎0879-25-5151

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瀬戸内海の夕日を見るなら「山田海岸」へ。穏やかな海に臨む砂浜は、夏には海水浴客で賑わう

出典:ひととき2021年11月号


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