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【水うちわ】水に浸けると透き通る 美濃手漉き和紙(岐阜県岐阜市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき 2020年8月号より)

 岐阜県中央部を南流する長良川。この川のせせらぎは当地に住む人々の心を癒やすと同時に、多様な文化を生み出してきた。そのひとつが「鵜飼(うかい)だ。かがり火を川面に映し、手縄(たなわ)さばきで鵜を操って鮎を獲るこの漁法は1300年以上の歴史があり、かの俳聖・松尾芭蕉や喜劇王・チャップリンも鵜飼を見物し、感嘆の声をあげたという。

 そんな鵜飼の観覧客への土産物として明治期に作られたといわれるのが、伝統工芸品「水うちわ」だ。竹の骨組みに貼られているのは、極薄の美濃手漉き和紙(雁皮紙〔がんぴし〕)。水に浸けるとたちまち透き通り、その見た目の清涼さが名の由来とも伝えられている。

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和紙を貼った表の柄に、裏の横縞が透けるモダンな仕上がりの「REN」。アーティスト高橋理子(ひろこ)さんとの共作

 1979年(昭和54年)を最後に作り手が途絶えていたが、これを復活させた立役者のひとりが、長良川を望む岐阜市今町に本社を構える老舗和紙問屋「家田紙工(いえだしこう)」。「愛知万博を控えた2003年に岐阜の特産を見直す機会があり、その時から地元のNPO法人ORGAN(オルガン)とともに水うちわ復活の取り組みを始めました」と同社の見城英雄さん。最も大変だったのが、水うちわの命ともいえる薄くて強い雁皮紙作りだ。一般的な和紙を漉くのは縦横に各10回ほどだが、雁皮紙は各3~4回で、わずか15ミクロンという薄さに均一に仕上げなければならない。かつての職人に尋ねたものの漉き上げる作業は感覚を頼りにするほかなく、試行錯誤を繰り返した。

「コーティングのニスにしても文献には『和ニス』としか記されておらず、一から模索しました」

 現代版水うちわが完成するまでには3年の月日を要したという。

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極めて薄い雁皮紙に漉き上げるには卓越した技術が不可欠

 紙漉きをはじめ、うちわ貼り、刷り込み、ニス塗りと、各工程は職人の手作業によるもの。

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漉き上がった和紙に丁寧に絵柄を刷り込んでいく。絵柄によって印刷を組み合わせることも

 手仕事の温かみが宿り、透明感を引き立てる美しい絵柄が目を楽しませる水うちわは、〝人にも環境にも優しい〟ことへの意識が高まる今、改めて見つめたくなる工芸品だ。

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夏の風情を感じさせる、人気の高い「金魚」。シルク印刷により、豊かな色彩を表現。

文=佐藤美穂 写真=佐々木実佳

ご当地◉INFORMATION
●岐阜市のプロフィール

金華山、岐阜城、長良川温泉など観光名所を擁する同市。戦国時代に旧岐阜町が美濃斎藤氏や織田信長が治める城下町として発展。江戸時代には尾張藩領となり、商工業の中心地として栄えた。市内を北東から南西に横切るように流れる一級河川・長良川の伏流水の一部は、市の水道水に使われている。
●岐阜市へのアクセス
東海道本線、高山本線岐阜駅下車
●問い合わせ先
岐阜観光コンベンション協会 ☎058-266-5588
家田紙工 ☎058-262-0520
※家田紙工の水うちわは、JR東海のお取り寄せサイト「いいもの探訪」でもご紹介しています。

出典:ひととき2020年8月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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