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平賀源内も称賛した輝く白さが魅力の天草陶磁器(熊本県天草市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2021年9月号より)

 青く澄みきった海と真っ白な海岸との鮮烈なコントラスト。天草下島しもしま西岸にある白岩崎しろいわざき海岸を埋め尽くす白い石は天草陶石あまくさとうせきだ。

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絶景として知られる白岩崎海岸。天草陶石の真っ白な浜が広がる

 陶磁器の原料となる陶石のうち、天草産が国内生産量の約8割を占めていることはあまり知られていない。有田や波佐見はさみ、瀬戸といった焼物の有名産地でも、天草陶石が使われている。

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天草陶石。粉砕して練り合わせると磁器の生地になる

 天草で良質な陶石が発見されたのは17世紀中頃といわれ、内田皿山郷うちださらやまきょうに最古の窯跡が残る。1762年には高浜村で磁器が焼かれ始めた。天草陶石を使った磁器は薄く強度に優れ、輝くような白さが特徴だ。鉱物学に通じていた学者・平賀源内は天草陶石を「天下無双の上品」と称賛している。

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復刻シリーズの海松紋のカップ(高浜焼 寿芳窯)

 天領だった天草では、藩の窯ではなく村民の自活のための窯業ようぎょうが育まれた。地元の土で陶器も焼かれ、シンプルで温かみのある器が島の暮らしを彩ってきた。

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日常使いのさまざまな器を作る工場(高浜焼 寿芳窯)

 天草で最も歴史のある「高浜焼 寿芳窯じゅほうがま」の資料館には、代々の器が展示されている。江戸中期の紋様の中から海松紋みるもんという海藻の模様を復刻してあしらったモダンなデザインの皿やカップが目を引く。つややかな白い肌にくっきり映える海松紋からは、波音までも聞こえてきそうだ。

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天草で採れる陶石を使った、白さ際立つ磁器のカップ。天草の海を思わせるデザインが人気(高浜焼 寿芳窯)

「天草創磁 久窯ひさしがま」では、特等から4等石まで白さによってランクがある陶石の持ち味をうまく使い分けている。染付や鉄絵を施すものには、少し鉄分を含む2等石を。「真っ白よりも、やや青みがかった地肌のほうが呉須ごす(顔料)の青がなじむんです」と江浦えうら久志ひさしさん。特等の石を純白ではなくアイボリー色に焼き上げるのも、江浦さんならではの工夫だ。

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かざすと光が透けて見える江浦さんの白磁の器。薄く透光性が高い焼き上がりは天草陶石ならでは

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16世紀にポルトガルの活版印刷機で印刷された天草本『伊曽保〈いそほ〉物語』(イソップ物語・復刻版)を絵付けした江浦久志さんの皿

 天草で2番目に歴史のある窯「みずだいら焼」を継ぐ8代目の岡部祐一さんは、「海鼠釉なまこゆう」の技法で陶器を焼く。原料は近くで採れる赤土。鉄釉てつゆう藁灰釉わらばいゆうの2種類の釉薬を掛け合わせて生まれる深みのある色と複雑な表情を、「天然の原料ならではの一期一会のもの」と祐一さん。

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祐一さんの海鼠釉の皿。深海のような神秘的な表情は一つとして同じものがない

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岡部祐一さん(左)と弟の俊郎さん

弟の俊郎さんは「器峰窯きぼうがま」を立ち上げ、天草陶石の風合いを生かした白磁や染付の器を作っている。一つひとつ手で成形する器は微妙な揺らぎと陰影があり、呼吸しているかのよう。

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型押しの陰影が印象的な俊郎さんの器

 天草では現在、20を超す窯が個性豊かな磁器や陶器を作っている。おおらかな島の気質のように、形式にとらわれない自由さと多様性が、新しい時代を開いていく。

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俊郎さんの器を使う「Picasso〈ピカソ〉」の前菜。「料理を生かす器」とシェフの松田悠佑さん

文=宮下由美 写真=阿部吉泰

ご当地INFORMATION
天草市のプロフィール
大小120余りの島々からなる天草諸島のうち天草下島の主要部を占める。九州本土とは天草五橋で結ばれ、福岡、熊本空港との間に空路が開通している。約450年前にポルトガル人宣教師によりキリスト教と南蛮文化がもたらされ、その歴史を伝える施設が今も点在する。豊かな海の幸や美しい夕陽スポットも人気。
●問い合わせ先
高浜焼 寿芳窯
☎0969-42-1115
http://takahamayaki.jp/
天草創磁 久窯
☎080-1754-4785
http://amakusatoujiki.com/kamamoto/hisashigama/
水の平焼/器峰窯
☎0969-22-2440
http://amakusatoujiki.com/kamamoto/mizunodaira/
Picasso
☎0969-66-9595
https://picasso2014.com/
天草市イルカウォッチング総合案内所
☎0969-33-1616
https://amakusashi-dolphin.jp/

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五和町いつわまち通詞島つうじしま沖合には約200頭の野生のミナミハンドウイルカが生息。一年を通してイルカウォッチングが楽しめる

出典:ひととき2021年9月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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