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芭蕉の風景 対談集

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俳人・小澤實さんが芭蕉が句を詠んだ地を実際に訪れ、俳人と俳句と旅の関係を深く考え続けた二十年間の集大成『芭蕉の風景(上・下)』の刊行を記念し、俳句の魅力、芭蕉の魅力、旅の魅力につ… もっと読む
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俳句に革命を起こした芭蕉の“発明”とは?|対談|小澤實×山口信博

取り合わせの発明梅﨑:そもそも芭蕉って、どんな人なのでしょうか。小澤先生は『日本文学全集』(河出書房)の近現代詩歌の巻で俳句の選をされて、作家ごとにキャッチコピーをつけていらっしゃいますよね。正岡子規だったら「近代俳句の始祖」、高浜虚子は「近代俳句最大の巨人」、井上井月だと「江戸と明治をつなぐ」とか。そこで、ぜひ芭蕉にもキャッチコピーをつけていただきたいのですが。 小澤:僕は「俳句の原型を作った人」というふうに思っています。俳句というのは近代俳句の用語なので、正しくは発句で

芭蕉が愛し、育てようとしたもの|対談|小澤實×磯田道史#3

芭蕉の最愛の人、杜国小澤:僕は、芭蕉が恋の相手として一番大事にしていたのは、弟子の杜国だったと考えています。杜国は名古屋の豪商でしたが、米の架空取引(空米売買)の罪に問われて伊良湖(愛知県田原市)に流される。芭蕉はそこを訪ねて、「鷹一つ」の句を詠んでいます。 鷹一つ見付てうれしいらご崎 芭蕉 磯田:この時代、「逸物の鷹」という言い方があって、ほれぼれするような、頭抜けて優秀な人を鷹に例えました。芭蕉にとって坪井杜国は鷹だったんでしょうね。杜国の方も気があるようで、尊敬して

芭蕉の“ボーイズラブ”の真相に迫る|対談|小澤實×磯田道史#2

台所役人から建設技術者、俳諧師に磯田:芭蕉は、まず津藩藤堂家の重臣の台所役人として歴史に登場します。戦国武将として有名な藤堂高虎がいますね。その従弟で家老だった藤堂新七郎良勝という人がいました。この人は勇ましい。質実剛健で、藁でちょんまげを結った、などと、俗謡でうたわれた人です。大坂の陣で戦死しました。その息子が、侍大将の良精です。芭蕉はこの藤堂新七郎家の食事をつかさどる台所役人として伊賀上野に現れました。 小澤:その藤堂新七郎家で俳諧にも出会いました。芭蕉は、二歳年長だっ

芭蕉「忍者説」の真相に迫る|対談|小澤實×磯田道史#1

曾良は幕府の巡見使だった!磯田:小澤さんとは、五年ぐらい前に「百点句会」で初めてお会いしたんですよね。 小澤:「百点句会」は銀座の老舗の集まり「銀座百店会」が主催する歴史のある俳句会です。久保田万太郎、中村汀女、水原秋桜子らが参加していたものがまだ続いているのです。そこに磯田さんがゲストでいらして、歴史に関するとても面白い話をしてくださった。この人とは友達になりたいなと強く思いました。 磯田:小澤さんは、『芭蕉の風景』で芭蕉忍者説についても書かれていて、嬉しく拝読しました

自分を守るものを失っても、一歩前に進む気持ち|対談|小澤實×モモコグミカンパニー(BiSH)#3

俳人・小澤實さんが芭蕉が句を詠んだ地を実際に訪れ、俳人と俳句と旅の関係を深く考え続けた二十年間の集大成『芭蕉の風景(上・下)』(ウェッジ刊)が、好評発売中です。 そこで、俳句の魅力、芭蕉の魅力、旅の魅力について小澤さんと3人のゲストが語る対談をお送りします。お二人目は、“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーで、今月初めての小説『御伽の国のみくる』を出版予定の、モモコグミカンパニーさん。 最終回となる今回は、新しい世界に踏み出す勇気について語り合います。 >>>#1

死を見つめた先に生まれる世界|対談|小澤實×モモコグミカンパニー(BiSH)#2

俳人・小澤實さんが芭蕉が句を詠んだ地を実際に訪れ、俳人と俳句と旅の関係を深く考え続けた二十年間の集大成『芭蕉の風景(上・下)』(ウェッジ刊)が、好評発売中です。 そこで、俳句の魅力、芭蕉の魅力、旅の魅力について小澤さんと3人のゲストが語る対談をお送りします。お二人目は、“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーで、来月初めての小説『御伽の国のみくる』を出版予定の、モモコグミカンパニーさん。 今回は、お互いの死生観にまで深く踏み込んで語り合います。 >>>前回から読む

芭蕉が教科書に載る理由がわかりました!|対談|小澤實×モモコグミカンパニー(BiSH)#1

俳人・小澤實さんが芭蕉が句を詠んだ地を実際に訪れ、俳人と俳句と旅の関係を深く考え続けた二十年間の集大成『芭蕉の風景(上・下)』(ウェッジ刊)が、好評発売中です。 そこで、俳句の魅力、芭蕉の魅力、旅の魅力について小澤さんと3人のゲストが語る対談をお送りします。お二人目は、“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーで、来月初めての小説『御伽の国のみくる』を出版予定の、モモコグミカンパニーさん。渋谷駅近くにある古本屋さんの2階で、本好きな二人の対談が始まりました……。 ≪お

芭蕉はなぜ、行けなかった土地の句を詠んだのか?|対談|小澤實×浅生ハルミン#3

>>>第1回から読む 「芭蕉」を生み出した主君、蟬吟ハルミン:『芭蕉の風景』には、芭蕉が伊賀上野にいたころのことも書かれています。芭蕉は若い時から苦労していたんですね。 小澤:特に二十三歳で、主君の蟬吟(上野城の侍大将、藤堂新七郎良精の嫡男良忠)が亡くなったときは、ものすごいショックだったはずです。俳諧も習い始めたし、生活も保障されて、ここを足がかりに、なんとか生きていけると思っていたら、急に蟬吟が二十五歳の若さで亡くなって……どうやってこれから生きていったらいいだろうと

芭蕉が「人生最高の瞬間」に詠んだ俳句は?|対談|小澤實×浅生ハルミン#2

俳人・小澤實さんが芭蕉が句を詠んだ地を実際に訪れ、俳人と俳句と旅の関係を深く考え続けた二十年間の集大成『芭蕉の風景(上・下)』(ウェッジ刊)が、好評発売中です。 そこで俳句の魅力、芭蕉の魅力、旅の魅力について小澤さんと3人のゲストが語る対談をお送りします。お一人目は、本のカバーや帯に素敵なイラストを描いてくれたイラストレーター・エッセイストの浅生ハルミンさん。3回シリーズの2回目は、大盛り上がりになりました。 >>>第1回から読む 猫が入っているから……ハルミン:小澤先生

日本武尊と芭蕉に“挨拶”した場所|対談|小澤實×浅生ハルミン#1

芭蕉も私も三重県人ですが…小澤:浅生ハルミンさんは、『芭蕉の風景』を装丁されたデザイナーの山口信博さんにご紹介いただきました。山口さんが主宰する折形デザイン研究所の句会に見えていたんですよね。 ハルミン:そうです。山口さんとは、展覧会のポスターのイラストをご依頼いただいたのが最初で、お仕事ではもう二十年以上お世話になっています。 小澤:かわいくて、すごく気に入っている表紙です。山口さんの提案で、「澤」*と込みで依頼したんです。二年間、句誌の表紙を描いていただいて、終わる頃