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「ひととき」の特集紹介

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2022年7月の記事一覧

教えて!木造モダニズム建築の傑作・日土小学校をつくった松村正恒の魅力|八幡浜(愛媛県)

日土小学校との衝撃の出会い 1994(平成6)年、ある建築雑誌の取材で初めて日土小学校を訪れた花田佳明さんは、夢中で写真を撮り続けたという。同行した編集者には「泣きながら写真を撮っていた」と笑われたそうだ。 「日土小学校を訪れる直前まで、松村正恒という建築家の名前さえ知りませんでした。でも日土小学校をひと目見た瞬間に、ガツンとやられてしまった。非常に理知的な構成なのに、あらゆる空間が子どもの居場所として設計されている。ほんとうに驚きましたね。神戸の自宅に戻ってからも、あの日

モダニズムの建築家・松村正恒流「学校らしくない学校」へ(愛媛県・八幡浜)

旧川之内小学校 通っていた小学校の校舎を、覚えていますか?  私たちがこれまで過ごしてきた多くの建物のなかで、とりわけ懐かしく感じたり、その細部まで鮮明に思い出したりすることができるのは、小学校ではないでしょうか。あの頃の記憶の蓋をひとたび開けば、好きだった子の笑顔やしでかした悪戯、先生のしかめっ面などが次々と飛び出してくるようです。いい思い出も、ほろ苦い思い出も――。 東京からUターンした「年中無休建築士」思い出に残る学校を創りたい、半端者の戯れごとです、人の心にしみる

京都――タイルと建築100年の物語【紀行2:さらさ西陣・築地・1928ビル】

和製マジョリカタイル貼りの 銭湯をリノベーション「さらさ西陣」「朝風呂気分ですね」(中村さん)  木の扉を開けてお邪魔したのは、北区紫野にある「さらさ西陣」。木造2階建て、築80年の銭湯・旧藤森温泉をリノベーションし、2000(平成12)年にオープンしたカフェである。建物は国の登録有形文化財になっている。天井の湯気抜きから差し込む日差しの下で、中村さんが大きく伸びをした。 時代を越えて愛される空間  曲線を描いた唐破風を頂いた外観とは一変。格天井の元脱衣場の向こうに現れ

京都――タイルと建築100年の物語【紀行1:先斗町歌舞練場、京都市京セラ美術館】

先斗町歌舞練場京都が生んだ美術タイル「泰山タイル」の宝庫  明治から昭和時代にかけて活躍した小説家・谷崎潤一郎は随筆『陰翳礼讃』のなかで、タイルを痛烈に腐している。曰く「ケバケバしい」「『風雅』や『花鳥風月』とは全く縁が切れてしまう」などと、散々な言いようである。文豪に楯つく気はないが、京都・鴨川右岸にある先斗町歌舞練場の建物を前にすると、谷崎先生に文句のひとつも言いたくなる。なにしろ目の前の建物は、タイルを外壁全面に使っているのに、格式さえ感じさせる落ち着いた佇まいだから

教えて!京都のタイルと建築の話(中村裕太さん×倉方俊輔さん)

[Q1]京都が近代建築の宝庫なのはどうして?倉方 平安京が築かれた794(延暦13)年から、東京に遷都される1869(明治2)年まで、京都は日本の政治・文化の中心地でした。ところが天皇が東京に居を移すと、京都の人口は激減。経済も低迷期を迎えます。しかし、1880年代からの窯業や繊維業をはじめとした近代産業の振興によって、京都は近代都市として再生への道をたどっていくのです。  1890(明治23)年には琵琶湖疏水*が完成し、その5年後には日本初の路面電車が街を走るようになりま