金馬賓館殺人事件|フォルモサ台湾ショートストーリー(栖来ひかり)
「犯人はあなたですね、邱美鏡さん。いや、角鏡子さん」
謝刑事の目はまっすぐ鏡子を射抜いた。もう逃げることはできない。不思議な安堵感に満たされながら、鏡子は軽く目を閉じた。
「ふふ、どうしておわかりになったの?」
トンビの聲が頭上とおくに響き、海に近いことがわかる。北回帰線を越えた台湾南部のつよい日差しが廊下に並ぶ細い柱の隙間から差し込んで濃い影をつくる。貧血を起こしたときのように日陰のコントラストがギラギラと鏡子の眼前に迫り、廊下の壁に貼ってある「検挙匪諜 人人有責(ス