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ウェッジから刊行された書籍の中から、ほんのひとときがおすすめする、旅や文化・歴史に関するものをご紹介していきます。
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2024年7月の記事一覧

唐招提寺の鑑真和上像に込められた弟子たちの想い──西山厚『語りだす奈良 1300年のたからもの』

唐招提寺の忍基は、講堂の梁が折れる夢を見た。 眼が覚めた忍基は、これは鑑真和上が亡くなる知らせに違いないと考えた。 いやだ。師がいない世界で生きるのは耐えがたい。鑑真和上は、ほかのどこにもいない、最高の師だった。 弟子たちは、師が生きておられるうちに、肖像を造ることにした。師の姿をこの世に留めるために。 まず、土で師の姿を造る。その上に麻布を漆で何枚も貼り重ねていく。一番上には、師の衣をいただいて着せた。それが終わると、背中に窓を開け、中の土を取り出す。 麻布の上に

命とは、不思議なものだ。──西山厚『語りだす奈良 1300年のたからもの』

今からおよそ2500年前の2月15日の夜、お釈迦さまはインドのクシナガラで亡くなった。見上げれば、天には満月が美しく輝いていた。 それから1500年ほどが過ぎて、平安時代の終わりに西行はこんな歌を詠んだ。  願はくは花の下にて春死なんその如月の望月のころ 如月の望月とは2月15日の満月のこと。お釈迦さまが亡くなった日に死にたい。 西行は文治6年(1190)2月16日に亡くなった。この年の2月は、16日が満月だったそうで、この上ない最高の亡くなり方だった。 旧暦の2月

新1万円札の顔・渋沢栄一が、現代を生きる私たちに語りかけること

文=渋澤健 100年以上読み継がれる『論語と算盤』新しいお札の顔として注目を集める渋沢栄一。多くの事業を興し、「日本資本主義の父」とも呼ばれる彼の言葉を集めた講演録が『論語と算盤』だ。 『論語』は、古代中国の思想家である孔子の教えをまとめたもので、道徳などについて述べている。渋沢の場合、ただこの『論語』について説明しているのではなく、同時に算盤、つまり経済について論じているのだ。道徳と経済活動が一致すべき、それが渋沢の考えであった。 この『論語と算盤』は、1916(大正