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イスタンブル便り

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25年以上トルコを生活・仕事の拠点としてきたジラルデッリ青木美由紀さんが、専門の美術史を通して、あるいはそれを離れたふとした日常から観察したトルコの魅力を切り取ります。人との関わ… もっと読む
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#伊東忠太

トルコから見るシルクロード(1)伊東忠太をめぐって(タシケントとブハラ)|イスタンブル便り

サマルカンドから帰ってきたばかりである。サマルカンドは、中央アジア、ウズベキスタンにあるオアシス都市。シルクロードで栄えたことで有名だ。先月のエジプト同様、日本のさる研究機関から依頼された、研究調査出張だった。 ウズベキスタンは初めてだった。 研究のために行くというのに、誰も知り合いがいない。ゼロである。 出発する数日前、勤務先のイスタンブル工科大学の同僚、ゼイネップから尋ねられた。 「タシケントに行くの? ユクセルに会う?」ゼイネップが言う。 「え? ユクセル先生?

関東大震災100年と伊東忠太|イスタンブル便り

国境の町で、 一泊を余儀なくされた。イタリアの山の上の村からイスタンブルへ帰る自動車旅行の途上である。南伊の港からギリシャへフェリーで渡り、イグナツィア街道をひた走り、トルコへの国境を越えてしばらく行ったところで、車が突然故障したのだ。 翌朝。宿泊客のまばらな朝食室のテレビが、破壊された建物の映像を映し出した。まだ目覚めていなかった体の細胞が、一気に覚醒した。 トルコ南東部、シリア北西部を未曾有の大地震が襲ったのは、今年2月のことである。現時点で、死者数は5万余と言われて

オスマン帝国的聖地 エルサレム案内【前編】|イスタンブル便り

ここ数日急に冷えて寒くなってきたイスタンブルで、灼熱だったエルサレムのことをずっと考えている。 この秋に初めてイスラエルを訪れることになったのは、ヨーロッパ共同体の国際プロジェクトで、ハイファ大学に招待されたからだ。「旅するモノたち」と題されたその学会は、 ひとではなく、モノが場所を移動する(旅する)ことで、置かれる文脈が変わり、使われ方や形や意味を変える、その実態とあり方について、各国から集まった専門家が議論するものだった。京都の祇園祭で披露される欧州製のタペストリや中東