マガジンのカバー画像

イスタンブル便り

33
25年以上トルコを生活・仕事の拠点としてきたジラルデッリ青木美由紀さんが、専門の美術史を通して、あるいはそれを離れたふとした日常から観察したトルコの魅力を切り取ります。人との関わ… もっと読む
運営しているクリエイター

#イスタンブール

甘い甘い、話をしよう~断食月と砂糖祭|イスタンブル便り

ドン、、、ツクツクツク、ドン、、、ツクツクツク、ドン、ツク、ドン、ツク、ドドドン、ドドドドドン・・・  深夜3時過ぎ。暗闇のなかに、太鼓の音が響く。熟睡を覚まされて、気づく。ああ、今年もやってきた。トルコで毎年断食月になると、おなじみの光景である。  イスラームの暦には、断食月という不思議な月がある。ひと月のあいだ、人々が昼間の間一切の飲食を断つ月である。  前にも書いたが、イスラームでは、ヒジュラ暦という、月に基づいた太陰暦が用いられる。断食月は、9月。それが終わると

チューリップ熱愛|イスタンブル便り

 3500万円。  現代のお金に換算すると、それくらいだったという。家の値段ではない。チューリップの球根一個の話である。  チューリップの国、といえば、ほとんどの日本人は、オランダ、と答えることだろう。それは日本だけの話ではない。風車、木靴、チューリップの三拍子は、世界的にオランダの定番である。チューリップの輸出世界シェアの9割を占めるのはオランダなのだそうだ。  わたしのような「トルコ関係者」は、そこを「いやいや、じつはチューリップの原産はトルコで、それをオランダ人が

バッハと土耳其珈琲|イスタンブル便り

この連載「イスタンブル便り」では、25年以上トルコを生活・仕事の拠点としてきたジラルデッリ青木美由紀さんが、専門の美術史を通して、あるいはそれを離れたふとした日常から観察したトルコの魅力を切り取ります。人との関わりのなかで実際に経験した、心温まる話、はっとする話、ほろりとする話など。今回は、トルコの地に刻まれたコーヒーの「記憶」について。 「一杯のコーヒーには、四十年ぶんのハトゥルがある」  トルコでよく知られることわざである。だが、ハトゥル、とは、訳すのが難しいトルコ語

イスタンブル雪見散歩と昔ながらの味

この連載「イスタンブル便り」では、25年以上トルコを生活・仕事の拠点としてきたジラルデッリ青木美由紀さんが、専門の美術史を通して、あるいはそれを離れたふとした日常から観察したトルコの魅力を切り取ります。人との関わりのなかで実際に経験した、心温まる話、はっとする話、ほろりとする話など。今回は、突然の大雪に見舞われたイスタンブルで求めた昔ながらの味について。  イスタンブルに雪が降る、というと、驚かれることが多い。  昔流行った歌謡曲のせいか、はたまた「アラビアン・ナイト」と

ギリシャ正教のクリスマスと神現祭|すべての祝祭を寿ぐイスタンブルの年末年始(3)|イスタンブル便り

この連載「イスタンブル便り」では、25年以上トルコを生活・仕事の拠点としてきたジラルデッリ青木美由紀さんが、専門の美術史を通して、あるいはそれを離れたふとした日常から観察したトルコの魅力を切り取ります。人との関わりのなかで実際に経験した、心温まる話、はっとする話、ほろりとする話など。今回は、イスタンブルに総本山のあるギリシャ正教のクリスマスと神現祭について。 >>>(1)から読む  クリスマスと、そのあとに続くすべての良きもの。 「ねえ、ルーム(ギリシャ正教)のクリスマ

イスタンブルに今も息づくシナゴーグを訪ねる|すべての祝祭を寿ぐイスタンブルの年末年始(2)|イスタンブル便り

この連載「イスタンブル便り」では、25年以上トルコを生活・仕事の拠点としてきたジラルデッリ青木美由紀さんが、専門の美術史を通して、あるいはそれを離れたふとした日常から観察したトルコの魅力を切り取ります。人との関わりのなかで実際に経験した、心温まる話、はっとする話、ほろりとする話など。今回は、前回ご紹介したユダヤ教の祭礼・ハヌーカーを終えたあとのきわめて貴重な体験が綴られています。 >>>(1)から読む  ハヌーカーのお祭りが終わった翌日の、朝10時。わたしはクズグンジュッ

光の祭典、ユダヤ教のハヌーカーをともに祝う意味|すべての祝祭を寿ぐイスタンブルの年末年始(1)|イスタンブル便り

この連載「イスタンブル便り」では、25年以上トルコを生活・仕事の拠点としてきたジラルデッリ青木美由紀さんが、専門の美術史を通して、あるいはそれを離れたふとした日常から観察したトルコの魅力を切り取ります。人との関わりのなかで実際に経験した、心温まる話、はっとする話、ほろりとする話など。今回は、毎年この時期に行われるユダヤ教の祭礼・ハヌーカーについて。  年の瀬である。  この時期、イスタンブルの街は華やかなイルミネーションで彩られる。 「ユルバシュ、ユルバシューウ!」

博物館からモスクになった「アヤソフィア」の今|イスタンブル便り

この連載「イスタンブル便り」では、25年以上トルコを生活・仕事の拠点としてきたジラルデッリ青木美由紀さんが、専門の美術史を通して、あるいはそれを離れたふとした日常から観察したトルコの魅力を切り取ります。人との関わりのなかで実際に経験した、心温まる話、はっとする話、ほろりとする話など。今回は、2020年7月に博物館からモスクになったビザンチン時代の大聖堂「アヤソフィア」の今をレポートします。  アヤソフィアのドームの内側頂点には、「アルトゥン・トプ(金の玉)」と呼ばれる半球体

日本人のわたしがトルコで建築史を教える|イスタンブル便り

この連載「イスタンブル便り」では、25年以上トルコを生活・仕事の拠点としてきたジラルデッリ青木美由紀さんが、専門の美術史を通して、あるいはそれを離れたふとした日常から観察したトルコの魅力を切り取ります。人との関わりのなかで実際に経験した、心温まる話、はっとする話、ほろりとする話など。今回は、トルコの大学で建築史を教える筆者が、一年半ぶりに対面授業が再開された感慨を綴ります。  朝7時25分。  自宅から歩いて5分足らずの船着場から、ボスフォラス海峡を渡る定期船に乗る。10

ボスフォラス海峡で味わう海の恵み|イスタンブル便り

この連載「イスタンブル便り」では、25年以上トルコを生活・仕事の拠点としてきたジラルデッリ青木美由紀さんが、専門の美術史を通して、あるいはそれを離れたふとした日常から観察したトルコの魅力を切り取ります。人との関わりのなかで実際に経験した、心温まる話、はっとする話、ほろりとする話など。第1回は、ヨーロッパとアジアを隔てる要衝の地・ボスフォラス海峡を望みながら、海の恵みを味わいます。  九月のある土曜日、黒海岸の小さな街に出かけようとパオロ騎士(私の夫である)と車に乗った。黒海