マガジンのカバー画像

おいしいもんには理由(わけ)がある

5
料理研究家・土井善晴さんが、郷土料理、食文化、道具や器、それらを支える各地域の歴史や熟達の手わざ等、日本の暮らしを豊かにしてきたモノ、コト、ヒトを、全国津々浦々を巡りながら紹介し… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

土井善晴先生、熊本名物「太平燕」をつるりと味わう!

 熊本の町は初めてです。興味津々、そうなると、否も応もなく町並みと人が織り成す景色が目に飛び込んできて、これまで訪ねてきた旅の経験と重ね、オートマチックに町の雰囲気を読み取ろうとする。そして、何かしらの面白さを発見すると、町に対する印象は、好感に変わるのです。  熊本の印象は、よく維持された昔ながらの家並みに混じってすっきりとモダンな建築も建ち並ぶ。古いものにセンスよく手を入れたお店がポツンポツンとある。おしゃれなヤングが目立つ。出勤する人の姿に、若者が仕事する姿に、町のや

土井善晴先生、山口県萩市で“極上のウニ”と出会う!

 今回は、この連載の旅では初めて訪れる山口県。山口県と言えば下関のふぐを思う私ですが、赤ウニという極上のウニがあると知り、萩市須佐を訪ねました。  須佐は山口県北東部にあり、萩駅から海岸沿いに東へ約37キロ。須佐という地名は、神話の時代の「須佐之男命が出雲の国から朝鮮半島に渡る際、神山(須佐にある高山)の峰に立って航路を定めた」ことに由来するそうです。  須佐湾は「西の松島」と呼ばれ、国の名勝、北長門海岸国定公園にある複雑で険しい岩礁と穏やかな入り江が連なる変化に富んだ景

土井善晴先生が解き明かす「静岡おでん」の美味しさの秘密

 東海道新幹線に乗れば、私は富士山側にいつも座りたい。富士山が見えたらうれしくなって、いつも写真を撮る。ツイッターでツイートすると「いいね」してくれる人の多さにびっくりします。みんな富士山が大好きなんですね。静岡には、私の最寄り駅・新横浜から約40分。新幹線に乗っている自由な時間は私の楽しみなのに、ちょっと早すぎます。 いざ、静岡おでん探検! おでんが有名だと聞いて静岡にきました。でも、おでん……、どんな風に面白いのか、まだ分かりません。静岡駅近くの駿府城公園に行って、徳川

土井善晴先生を魅了する“百万石の加賀料理”の真髄とは?

伝統工芸の礎を築いた加賀の文化 私にとって金沢といえば、伝統工芸の街でした。能登の輪島を含め、周囲にある山中漆器、九谷の焼物を訪ねて、幾度も足を運んだところです。  20代の料理修業時代、北大路魯山人の著作集をよく読んでいました。魯山人によると「日本料理の勉強の半分は料理の着物である器の研究だ」というのです。魯山人は山代温泉の須田菁華窯(すだせいかがま)や山中漆器の職人に習い、自身が顧問を務めた料亭・星ヶ岡茶寮で用いる器を作りました。加賀金箔を生かして、太陽と月を、金・銀

土井善晴先生が「𠮷兆」を訪問!〝日本料理〟を完成させた料亭のいま

 高麗橋𠮷兆本店の館が、建て替えをすませて、2019年7月、新たにスタートしました。日本料理界の頂点を極めた高麗橋𠮷兆です。普請、しつらい、もてなし、品格の高いお料理という湯木貞一(ゆき ていいち)が作りあげた日本美の世界は、どうなっていくのか、変わるもの変わらぬもの、日本料理のこれからが知りたくて、高ぶる心落ち着けて、訪ねました。  私にとって、𠮷兆は特別な存在です。湯木貞一は、私が師事した味𠮷兆のご主人・中谷文雄のさらに上の大ご主人だからです。湯木貞一に私淑していますと