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齋藤孝が読み解く『学問のすすめ』

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明治初年に刊行された福澤諭吉の『学問のすすめ』には、現代を生きる私たちの心にもダイレクトに響く言葉が散りばめられています。ここでは、教育学者としておなじみの齋藤孝先生の新著『図解… もっと読む
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嫉妬から解放されるコツ|齋藤孝が読み解く『学問のすすめ』

現在では、インターネットなどいろいろな技術が発達しており、また社会変動も激しいので、妬み嫉みなどいろいろな恨み、怨望が、社会的な攻撃の武器になってしまう時代です。ですから、こうした怨望から心を離すことができれば、とても楽になるのではと思います。 妬みの感情から逃れるコツをひとつご紹介しましょう。それは、妬んでいる相手の人を、逆に褒めてしまうのです。すると急に気が楽になります。 女性にすごくモテているのでどうも気に入らない、という人がいたら、「ああ、正直いってあいつはカッコ

妻の呼び方、どうしてますか?|齋藤孝が読み解く『学問のすすめ』

私が教えている大学の女子学生たちに、「自分が『嫁』と呼ばれるとしたら、どう思うか」と聞いてみました。すると、半分ほどの学生は「嫁」といわれるのを気にしていない。しかしもう半分は、ちょっと違和感がある。その違和感のある人たちに、「では、どういう呼ばれ方をされたいか」と聞いてみると、多かったのは「奥さん」でした。 実は「奥さん」という言葉も、本来は身分の高い人の妻に対する敬称なので、夫側が自分の配偶者に対する呼び方としてはおかしいのですが、いまの時代では、「うちの奥さんが」とい

右手には「伝統的な学力」を、左手には「新しい学力」を|齋藤孝が読み解く『学問のすすめ』

2020年前後から学習指導要領が学校に導入されて、これからの「新しい学力」を養うことになりました。その柱は、「思考力」・「判断力」・「表現力」の三つです。自分の頭で考えて、判断し、表現をしていく、ということですね。 これまで大学の入学試験では、表現力や判断力を求められたことはあまりありませんでした。そんな力をテストしようという意図が、大学入学共通テストの導入にはありました。しかし、難航しました。表現力や判断力を問う入試問題を実際に作るのは非常にむずかしいものです。ですから、

信じる、信じないをどうやって決めるか|齋藤孝が読み解く『学問のすすめ』

≪原文≫ 「信の世界に偽詐多く、疑ひの世界に真理多し。」 「人事の進歩して真理に達するの路は、ただ異説争論の際にまぎるの一法あるのみ。」 「事物の軽々信ずべからざることはたして是ならば、またこれを軽々疑ふべからず。この信疑の際に就き、必ず取捨の明なかるべからず。けだし学問の要は、この明智を明らかにするにあるものならん。」(第十五編) あっさりと人や物事を信じてはいけない まず、ほんとうかどうか疑ってみることだ「信の世界に偽詐多く、疑ひの世界に真理多し」これは格言みたいで、覚

学問は一人閉じこもってするものではない|齋藤孝が読み解く『学問のすすめ』

≪原文≫ 「人の性は群居を好み、決して独歩孤立するを得ず。(……)広く他人に交はり、その交りいよいよ広ければ、一身の幸福いよいよ大なるを覚ゆるものにて、すなはちこれ人間交際の起こる由縁なり。」 「およそ世に学問といひ、工業といひ、政治といひ、法律といふも、みな人間交際のためにするものにて、人間の交際あらざれば、いづれも不用のものたるべし。」(第九編) 人は孤立しては生きていけない 集まって互いに交流するのが人間社会だ人は、互いに交わることが、いかに大切であるか、という話です

「論語読みの論語知らず」になってはいけない|齋藤孝が読み解く『学問のすすめ』

≪原文≫ 「学問とは広き言葉にて、無形の学問もあり、有形の学問もあり。(……)いづれにてもみな知識見聞の領分を広くして、物事の道理を弁へ、人たる者の職分を知ることなり。」 「文字を読むことのみを知りて、物事の道理を弁へざる者は、これを学者といふべからず。いはゆる論語よみの論語しらずとはすなはちこれなり。」(第二編) 文字が読めて本を読むだけでは学者ではない ものの道理がわかっているのが学者だ学問には有形と無形とがある。先人のいうことを聞いたり、書物を読んだりすることは前提だ