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音楽業界は負けて負けて辿り着いたのが「ライブ」だったから簡単にライブを捨てられない

音楽業界は実は音楽だけ売ってる訳ではない

今コロナでどこも死にそうになってますがエンタメ業界は特に死にそうな業界の筆頭として残念な意味で話題になってます。要するにライブができないことが致命的なんですが、なんでライブができなくなっただけでみんな頭を抱えてるのかを僕の目線でこれまでの音楽ビジネスの歴史を追いながら書きます。あ、僕は音楽業界出身でアイドルプロデュースと作曲家・写真家のマネジメントとイベント企画をやってる人です。コンパクトに記事書こうと思うので情報ソースなどは割愛するから気になったら調べるか聞いてください。

昔々、音楽業界はCDを売るビジネスだった

僕は今30代前半で、小学生ぐらいだった90年代後半はテレビで音楽番組沢山やってたり、テレビ番組と連動してアーティストオーディションや企画物のアーティストがでてきたり、テレビを中心に盛り上がっていました。CDが何万枚も売れててランキング番組も派手で、とにかくキラキラした印象がありました。
当時はまだ今みたいにインターネットがなくて大衆向けの情報ソースがテレビやラジオ、雑誌ぐらいしかなかったので話題を作りやすかったですし宣伝すれば売れる時代だったのです。子供だった当時の僕は知る由もありませんが、先輩方の話を聞くと「ラジオで流せば3000枚売れた」「あの頃は派手でみんな勘違いしていた」「○○(某有名メジャーレコード会社)の名刺を見せればとにかくモテまくった」という今考えると信じがたい状況だったそうです。とにかくテレビ至上主義でテレビCMの尺が15秒だから15秒でまとまるようなサビを作れ!みたいなディレクションもあったとかなかったとか。テレビとレコード会社が頂点に君臨する時代でした。プロデューサーがカーディガンを肩にかけてるステレオタイプなプロデューサー像はこの時代のなんじゃないですかね?知らんけど。スタジオが寒い時に服装を調整するようのカーディガンらしいですよあれ。

技術がビジネスを破壊した

それが00年代前半、いわゆるIT革命と言われた時代に突入し、インターネットが本格的に盛り上がり始め、CDレンタル(当時レンタルが適法かを問う裁判もあったらしい)が更に流行ったり、MDで簡単に高音質で録音できるようになったり、iPodが出てきて少しずつ配信が増えていったりして、CDが売れなくなってくるのです。あと単純に世の中に面白いコンテンツが増えたこと、月々の携帯代が可処分所得を圧迫して個人の遊ぶお金が減ったことなどもあります。

そして違法アップロード&ダウンロード。P2Pという技術を使ったWinMX、Winnyといったファイル共有ソフトが社会問題化しました。インターネットのアングラな世界で不特定多数の人と気軽に音楽や動画なんかを共有できるようになったんです。とはいえ当時のインターネットは今ほど誰でも入れる明るい世界ではなかったから使ってる人は限られていたと思います。

CDレンタルもそうだったように自分たちのビジネスを守る為、音楽業界はMD、配信、P2Pに立ち向かいました。MDには録音料を上乗せしてディスクを販売したり、配信は海外でどんなに配信が増えていっても自分たちの楽曲を配信に出さないようにしたり、P2Pには当然訴えたり法整備を訴えかけたり、いろいろです。ちなみにP2Pが流行った頃、ダメなのはアップロードだけでダウンロードは違法じゃなかったです。

でも時代の流れにCDは勝てなかったんですよ。CDで勝てたのはアイドルと一部の超人気アーティストだけ。これでも頑張った方で、10年代において日本は世界で一番CDが売れる国だったのでした。ただし、多くの場合は特典券として。CDが特典券扱いになる問題については僕は僕で考えがあるのでそれはまた機会があれば書くとして今回は置いておきます。

CDの売上が配信の方に流れていったかというとそんなことはなくて、CDの売上が落ちていくスピードと配信の売上が伸びていくスピードが全然釣り合わず市場規模がどんどんと収縮していきます。いろいろと理由はあると思いますが、違法合法はさておいて無料で音楽を聞きやすくなったこともそうですし、単純にCDと配信だと単価が違いますよね。レコード会社というのは当時あくまでも「CDを売る会社」だったので、もう辛くて仕方ないです。レコード会社を頂点にCDありきで展開していた音楽業界でしたから、そこから連なるサプライチェーン上に乗っかった方々はみんな辛い。

音楽業界は「ライブ」に新天地を求めた

新興勢力と戦いつつも、音楽業界は次の稼ぎ方を模索していました。それがライブです。CD全盛期の時代、ライブはあくまでプロモーションを目的としたものでした。これを模索し始めたのは00年代後半ぐらいからな気がします。既に海外ではサブスクも少しずつ始まっていて、音源は無料で配りつつライブやグッズで稼ぐという動きが盛り上がっていました。日本は中途半端にCDが売れるCD神話があったから乗っかるのがちょっと遅かったんです。

「CDや配信を通して音楽データを買ってもらうのではなく、ライブに行って生でアーティストを見て、音楽やMCを聞いて、ファン同士でコミュニケーションして、記念でグッズを買って、それらの『体験』を買ってもらう」というのがCDバブルが弾けた音楽業界がやっと辿り着いた次のビジネスモデルでした。だから大型フェスなんていうのはまさにこの体験そのものです。レジャーシートで昼間から酒飲んだり、キャンプしたり、あくまで音楽を軸にした「体験」でしかありません。誤解を恐れずに言うなら音楽業界はもう音楽単体では売っていないのです。

みんなこれに活路を見出して、レコード会社はCD以外も含めたトータルでのマネタイズの意識を強め、ライブハウスやイベンターはイベントを沢山やり、CD屋は雑貨の扱いを増やしたりインストアライブを増やし、事務所はアーティストのタレント化、グッズ制作、ファンクラブなどを頑張りました。今まで書いてきた通り、これに至るまでに10年単位で活路を模索して各社が業態を最適化してきた訳ですから数ヶ月で簡単に切り替えられるようなものではありません。コロナは音楽業界の一番突かれると辛い急所を的確に突き、全てを凍結させてしまったのです。

コロナ下で展開されるライブ配信の「体験」強度について

現代音楽産業というのは最早「体験」を売るビジネスになっていますが、昨今試行錯誤されているライブ配信は生では味わうことができた「何か」が削ぎ落とされてしまい、体験の強度が落ちてしまっているように個人的に感じます。きっとその「何か」は大事なものだったのでしょう。

おそらく生での体験に比べて配信は情報量が圧倒的に少ないんだと思います。僕らは思った以上に沢山の情報を現実世界で取り入れていて、ライブ配信でも届けることができる音楽、言葉、演出、演者の表情や動き以外にも気づかないうちに大事にしていた情報がきっとあったのだろうと。

学校や仕事が終わって間に合うかどうかわからないギリギリで会場に駆け込んでみたり、入場待ちでワクワクしたり、周りから聞こえてくるコールや熱気を感じたり、みんなでアーティストの批評したり、ライブが終わった後打ち上げで語ったり、ライブ以外で集まって遊んだり。時には嫌なこともあったかもしれないけれど、基本的には楽しかったんだと思います。

なんだか僕は配信に足りないものの答えは必ずしもアーティストの中だけにあるとは限らない気がしています。ニコニコ動画って「みんなで見ると面白くないものも面白くなる」が立ち上げ時のコンセプトの一つになってたのご存知ですか?見る側がコンテンツを面白くするってことです。そういう考え方もあります。

右も左もわからない状況でみんな戦ってるので情報交換しながら柔軟に試行錯誤していくしかないです。極論誰かがこの現状をクリアすればあとはそれをみんな真似すればいいんじゃないかなと思うので、僕は自分のプランが成功するかどうかは別としてとりあえず色々試してみて周りの人にも考える材料を提供できたらいいなぁと思ってます。

とはいえ、早いうちになんとかなってほしいのが本音。ライブやりたいじゃん…。

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