見出し画像

画家にとってのストレス発散

Vol 5    日本   在日中国人   画家

私の身近な友人に、曾剣雄という有名な画家がいます。曾さんが中国での大学時代から日本の油絵の名匠になるまでを、私は4回に分けて取り上げたことがあります。

在日中国人画家曽剣雄(1)―—地域に溶け込み尊敬を受ける芸術家

在日中国人画家曽剣雄(2) ——日本における芸術修行

在日中国人画家曽剣雄(3) ——教師、画家、日中芸術の架け橋

在日中国人画家曽剣雄(4) ――感謝の念を抱き、絵画制作に打ち込む

毎年、春と秋に、日本には2つの権威ある芸術展があります。曾さんはそれらに出品します(第2話「日本における芸術修行」参照)。 油絵を知っている人も知らない人も、「曾先生の知り合い」たちは、毎年展覧会で曾先生の新作を見るのを楽しみにしています。

作品の裏側から見えるもの

1月末から2月初めにかけて、巡回展【日展】が名古屋に来ました。曾さんの今年の新作は、ウクライナから戦火を逃れて日本に来た母娘を描いた「祈り」です。

曾さんは、その完成までのプロセスを説明してくれました:

モデルは専門的な訓練を受けておらず、表情や動きで自分の内面を表現することにまだ慣れていないのです。
画家は、作品の構想や表現テーマに合わせてモデルの立ち位置や画面のレイアウトを設計し、モデルの目や顔、指の表現まで画家が少しずつ指導し、実演し、直さなければならないのです。

正確に言えば、油絵作品は、画家の卓越した絵画技術だけでなく、演出、衣装、照明など幅広い知識と能力が表れているのです。また、この作品には、時代や人間の存在のあり方に対する作者の問題意識も反映されています。

会場では、作品を鑑賞するほかに、曾さんに絵画以外の興味についてもインタビューしました。つまり、このサイトのテーマ(サードプレイス)に関する質問でした。

私の意図と「サードプレイス」の定義を聞いた曾さんは、少し戸惑いながら言いました。

「私にはそんなサードプレイスはないようです。 職業柄、一人でいることには慣れています。コロナの3年間は、人と会うことも話す機会も極端に少なくなりましたので、絵を描く以外の時間は主にインターネットで検索したり、勉強したりすることで時間を過ごしました。」

日展会場での取材

「それでは、どのようにストレスを発散し、生活の中で緊張感やリラックス感を調整するのですか?」

バドミントン

「中国の大学院時代からバドミントンが好きで、その習慣は今も続いています。運動しているうちに、心もリラックスしてきます。私が住んでいる豊田市には、充実した公共スポーツ施設がたくさんあり、市内のいくつかの企業のスポーツ施設も一般に開放されているので、スポーツが好きな人はいつでも都合のよい時間にプレーする会場を見つけることができるのです。」

「プレー相手は、中国人も日本人も区別せず、全員が抽選された順番にコートに立ちます。ラケットを大きく振り、ジャンプ、走り、緊迫したゲームが終わると、お互いにうなずき合って別れます。」

「長年練習していても、顔だけ覚えていて、話したことがない、名前も知らないという人もいます。」

「どうしてこんなに長くバドミントンを続けることができたのか」という質問に対して、曾さんはこう答えました。

「仕事の特徴で、私は時間の概念がなく、朝から晩まで絵を描き続けることもあります。週に1、2回バドミントンをすることで、汗を流す運動のスッキリした感覚とシンプルな人間関係が私は好きです。体力維持の必要性と社交に不必要に時間をかけない個人の習慣に合っていたからです。」

曾剣雄・王宏ペア 2014年、日本外国人・留学生バトミントン大会でダブルス三位入賞

アンティークマーケット

曾さんのもう一つのリラックス方法は、アンティークマーケットを訪れることです。

アンティークマーケットにはいろいろな種類がありますが、店舗を構えるのもあれば、地元の人たちがどこかの空き地で定期的に開催する骨董市もあります。参加自由の市民が、家にある古いものをその場に並べて販売します。日用品から工芸品まで何でもあります。

骨董市から見つけた品々 (1)
骨董市から見つけた品々 (2)

曾さんは、特に買い物の目的はなく、ぶらぶら歩いて、何か作品の役割を果たせるものに出会えないものかと期待を抱いて見回ります。骨董品や装飾品、あるいは思いもよらない器具など、売り手と交渉することもあります.........。

市場の不確実性があるからこそ、神秘性や予期せぬ驚きがあるのです。気ままな行動は、クリエイティブなインスピレーションの源にもなります。見つけたモノが作品の主役になったり、脇役になったり、曾さんのキャンバスに、時代や歴史、文化を表すシンボルになっていたのです。

作品に登場する骨董品(1)
作品に登場する骨董品(2)
作品に登場する骨董品(3)
作品に登場する骨董品(4)

バドミントンコートや、骨董市、情報ネットワークなど、いずれも「サードプレイス」の特徴を備えていると曾さんの会話からそう感じました。

中立・平等の場所
サードプレイスは、誰しもが自由に出入りでき、参加するために誰かの紹介は必要ではなく、また、誰かの要求で無理に滞在する必要もありません。社会的地位の高低や、上司と部下というような縦の関係は存在しません。もちろん、年齢や性別に関係なく、誰もがどこでもある「普通の人」です。
会話が弾みやすい場所
サードプレイスでもっとも重要視されているのは、その場にいる人同士の会話です。
会話の中身には、特別な意味合いは求められません。何かを生み出すために会話をするのではなく、その場を楽しむために会話をします。
居心地が良い場所
サードプレイスでは温かい雰囲気の中で会話を楽しめるため、リラックスして過ごせます。ほかの条件がどれだけ揃っていても、居心地が良いと感じることができなければサードプレイスとはいえません。

それらの行動の中に、他者との会話の割合が少ないにもかかわらず、サードプレイスの役割が十分に果たされたようです。

運動でストレスを解消します。アンティークマーケットで買い物をすることで喜びや新しい発想が得られます。ネットサーフィンで視野を広げます......これらはすべて、仕事や家庭と異なる場所での「精神生活」と思われます。

人々のサードプレイスの形はそれぞれですが、「解放感」「満足感」「心地よさ」などは、現代社会に生きる人々の生活の潤滑油と言えるのではないでしょうか。

中国語バージョン






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?