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アフリカでもっとも信頼される中国企業【TECHO-传音】-とある通信企業の軌跡

はじめに
TECNOとは?
3つの世界が並列するアフリカ
アフリカ携帯市場の弱点を突く                    積極的な販売戦略
自社製品の開発能力強化                       結びに

はじめに

アフリカから皆さんはどのようなことを想像しますでしょうか?サハラ砂漠やナイル川から連想する大自然や、まだまだ絶えない紛争など多様な姿を想像されると思います。
日本人にはまだまだなじみの薄いアフリカですが、隣国中国からアフリカンドリームを夢見る中国人は多くおり、今では建設現場で働く中国人労働者や、商店で売られる商品をあらゆるところにその側面がみられています。

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(中国企業が建築した、アフリカ連合議会向けの議事堂)

多くの中国人が活躍する中、ひときわ目立つのが【TECNO-传音手机】。
Made in chinaの同ブランドは2007年にアフリカに上陸した携帯電話メーカー。10年間でアフリカ市場を制した軌跡をご紹介いたします。

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(2018年には1.2億台の販売台数を達成した同社。Techoブランドを中心に、Infinixやitelといった複数ブランドを運営している。)

広東省深圳市が生んだチャイナドリームについて、今回お伝えしていきます。

TECNOとは?

一見輝しく見えるTECNO。しかしその成長は苦悩に満ちています。1990年代、世界各地で携帯電話産業が成長期を迎える中、中国でもポケベル製造企業などが、徐々に携帯電話端末への事業転換を図りました。
浙江省政府との共同プロジェクトを通じTECNOの前身である【BIRD-波导】も97年に立ち上がります。

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(既に解散したBIRD。かつては中国国内でも有力企業であった)

99年には外資SAGEM社とBIRDは技術提携を開始し、最初の生産ラインを立ち上げました。2000年には70万台の携帯電話の製造販売に中国国内で成功しましたが中国国内で最大手と見なされました

この栄華は長く続かず、深圳の華強北などで製造された【山塞】、いわゆるコピーブランドが急伸したことで状況が一変します。
山塞ブランドによって中国国内製造の携帯電話もブランドイメージが急低下したうえで、コピーブランドの低価格戦略に太刀打ちが出来ませんでした。

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(深圳市の華強北の電子市場を中心に、【山塞】は多く誕生した)

BIRDが迷走する中、海外営業の責任者が竺兆江氏がBIRDを離職し、TECHNO社を立ち上げるに至りました。同氏は中国国内での熾烈な携帯電話産業の目の当たりにし、国外市場に自社の成長を託すことになります。      
広東省深圳市を中心に成立した、モノづくりネットワーク。この強みを生かして安く大量に携帯電話を製造し、海外市場-アフリカへTECHOの運命は託されました。

3つの世界が並列するアフリカ

ひとくくりにされがちなアフリカですが、その世界は3種に分類されます。
南アフリカに代表されるヨーロッパ社会に組み込まれる世界。
サハラ砂漠の北のアラブ人を中心とする社会。サハラ砂漠以南のいわゆるブラックアフリカ地域です。
竺兆江氏がアフリカの中でもブラックアフリカ、特にウガンダやニジェールに目を付けたのです。

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(アフリカの中でも所得の低いブラックアフリカ。この地域は00年代でも携帯電話の普及率が約3割ほどでした)

00年代当初はNokiaがアフリカの携帯電話市場の1強でしたが、ヨーロッパ系や韓国系、さらには中国の山塞などが相次いで進出を続けていました。  
各社はアフリカでの販売チャンネルを独自に保有しておらず、アフリカ地元の販売商社を通じての販売にとどまおりました。            
これに目を付けたTECHNOは自分たちで販売チャンネルを開発保有し、農村からの販売を目指すという戦略を選びます。07年11月TECHNOはアフリカでの販売が始まりました。

アフリカ携帯市場の弱点を突く

当時のアフリカ携帯市場の弱点として、【不便な通信状況】が挙げられます。これを招いていたのは、電波を管理する大手キャリア企業が乱立することで各社とも貧弱な電波インフラしか提供できなかったからといえます。
その結果、異動するたびに電波障害に見舞われることになりました。

これに対しTECHNOは一種類の携帯電話は複数のSIMカードを搭載することで、1台の携帯電話で複数キャリアを利用できる、ダブルSIMの携帯電話を売り込み始めます。
2020年、アフリカの携帯電話ユーザーは約2.3枚のシムカードを恒常的に使用しているとされます。

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(複数の通信キャリアに対応できる、設計仕様)

この携帯電は大当たりし、わずか1か月でアフリカ現地の在庫が売り切れるに至りました。もちろんこの深圳で製造されたことによる低コストもこの販売を大きく後押します。

積極的な販売戦略

通信能力と価格により自信を深めた同社。この勢いに乗りユニークな販売戦略とブランディングに乗り出します。
競合企業が乗り込まなかったスラム街での自社販売店舗の拡大や、インフラの不便な農村での移動販売など、地に足を張り付けた販売拡大は注目に値するでしょう。

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(農村から包囲するという戦略は、中国の伝統的な戦略の1つに数えられる)

此の販売戦略に加え、メディアを用いたPRも果敢なものがありました。
広告のために建物全体を壁は勿論ガラスまで広告分で覆う、都市部は勿論農村まで徹底した広告といえます。

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販売拡大とPRで目標とした販売層は低収入層。携帯電話をようやく購入できる層に、TECHNOの携帯を認知させ購入時の第一選択肢になることが出来ました。
またアフリカ独自の環境に合わせたユニークな手法も採用されています。

アフリカの多くの地域では鶏が通貨に匹敵するほどの価値を持っており、【1台買ったら鶏1羽を送るキャンペーン】。TECHNO主催のアフリカンダンスパーティーにて、端末の紹介。

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(羊やミネラルウォーター等、アフリカで価値があるあらゆるものが景品対象となった)

自社製品の開発能力強化

複数のSIMカードという長所は競合他社も取り入れており、TECHNOは自社商品のさらなる開発に迫られました。この問題にTECHNOは2方面から自社製品の強化に取り組みます。

一つ目は充電力の強化です。容易に充電できない環境下であるアフリカ。いかに使用時間を延長するかが問題となっており、TECHNOは1度の充電で最長半月使用な機種を開発しました。

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(現地の使用環境に合わせたモデルの新開発)

2つ目はアフリカのユーザに合わせてソフト面の改善です。アフリカ現地複数言語へ対応したOS開発や、より美しく撮影する機能などが、3億元を投入して開発されました。

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(左がTECHNO、右が競合他社の撮影結果)

結びに

TECHNOはアフリカ現地では、中国ブランドとしては認識されておらず、店舗や広告において中国語や中国文化などは見当たりません。
2011年にはエチオピアで初のアフリカ自社生産拠点を立ち上げるなど、アフリカ現地への浸透を進めています。

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(エチオピア拠点の社員は90%以上がエチオピア人であり、同拠点のエチオピア人幹部はTECHOを【エチオピア初の外貨を稼ぎつつあり企業だ】と称しています)

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(TECHO同社のブランド一覧。ナイジェリア-ウガンダ-エチオピアでは自国のブランドと認識されている)

アフリカで大きく成長した中国ブランドである一方、その地位は決して安泰でありません。【タイムマシン経営-他国の進んだビジネスモデルを用いての経営戦略】で成長してきたTECHNOは徐々に通用しなくなりつつあります。
スマートフォンが普及しつつあるアフリカでは、従来の経営モデルの強みは失われつつあります。

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(同社の端末別売上図)

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(Simi- 思密など、他の中国ブランドがスマートフォンという形でアフリカ市場で力をつけつつある)

TECHOの今後の成功は如何にスマートフォン市場への転換と、スマートフォンに連動する各種市場へ対応するかにかかっているでしょう。

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(TECHOが運営するチャットアプリPalmChat。1億人の使用者数を誇るアプリとして、同社の成長戦略を担いつつある)

画像元及び参考情報源


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