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なりたい職業がなかった小学生の私

嫌いな食べ物となりたくない職業

13歳のハローワーク公式サイトによると、人気の職業2021年3月1日~3月31日のランキングは以下の通りだ。

1位(1) プロスポーツ選手
2位(2) ユーチューバー(YouTuber)
3位(3) 薬剤師
4位(5) 医師
5位(4) ゲームクリエイター
6位(22) 宇宙飛行士
7位(7) 声優
8位(16) 公務員[一般行政職]
9位(6) イラストレーター
10位(20) 金融業界で働く

夢のある職業が半分、現実的な職業が半分くらい。この結果だけを見ると医師は人気の職業のように見える。でも、本当に自分の考えで医師になりたい13歳がこれほどいるとは私には思えない。

子供のころの私は身体の不調がたくさんあって、しょっちゅう病院に通っていた。覚えているだけで、小児ぜんそく、濾胞性結膜炎(人にうつらない結膜炎)、鼻炎、中耳炎、腎臓疾患の疑い、小児高血圧の疑い、更に、乗り物酔いもあったので、遠くの病院にバスで行くことでますます具合が悪くなったりしていた。

小学校低学年の頃、腎臓の再検査で、母と一緒にバスで移動している途中、乗り物酔いが辛すぎて雨の中バスを降りるしかなくなった。

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バス停で雨宿りをしながら次のバスを待っていたときの、申し訳ない気持ちや、バスから降りられて吐き気が少なくなってほっとした気持ち。廂から落ちてくる雨だれと雨音。排気ガスの匂いや、履いていた長靴の冷たく湿った感触を鮮明に覚えている。

父もまた身体が強くはなかったそうだ。20代で結核を患い、数年間サナトリウムに入院していた。同じ病室にいた仲間が、次の日突然亡くなったりする中で、当時の最新の医療で手術して肋骨を半分無くして生還したが、その背中の大きな傷跡はまるで刀傷のようで、「ほら、これはお父さんがけんかをしてやられた傷だ」と、幼い私をだまして怖がらせ、面白がっていた。

父はいろいろな種類の果実酒を作るのが好きだった。梅酒、かりん酒、いちご酒、りんご酒、山ブドウ酒、そしてにんにく酒。滋養強壮によいからといって父はホワイトリカーで漬け込んだにんにくを取り出してミキサーで砕き、はちみつを混ぜたペーストを作って毎日一さじ食べていた。

このはちみつも、どこからかハチの巣ごと買ってきて純度100%のはちみつを取り出していた。

父は私にもそのペーストを食べさせた。書いているだけでまずそうだが、実際マズかった。小学生だった私は、親に逆らうことなどできず、食べなさいと言われたら、どんなに嫌いな物でも口に入れた。

更に、父が「勉強していい成績をとらないといけないよ」と言えばそのまま勉強していた。父のお手製の漢字練習用カードはすごい力作だった。今、自分の子供のためにあれだけできるか?と言えば、到底無理だ。

自分の部屋はあったが、実際には茶の間で勉強をしていた。今でいうリビング学習のような感じだ。父からは、テレビがうるさいなど集中していない証拠だぞ。「心頭滅却すれば火もまた涼し」だ。と言われてテレビが鳴っている中で勉強した。


小学生の頃からかなり勉強をしていてそれなりの成績だったから、中学生になったら父母だけではなく、いろんな人に「将来はお医者さんになったらいいよ」と言われるようになった。でも、10代の女子がなりたい職業とはかけ離れた職業としか思えなかった。

近所のお医者さんは、くたびれた白衣を着たおじいさんで、耳鼻科の先生はおばあさんだった。バスで行く総合病院にいる先生は、古くて陰気で、気が滅入るような病院にいる普通のおじさんだった。

毎日面倒でも気分が乗らなくても勉強した結果があの「お医者さん」なのか……まったくあこがれないし、むしろイヤなんですけど、と思っていた。でも、言えなかった。

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今なら、美容皮膚科などオシャレで明るい病院が存在して、キラキラしたお医者さんがいるのも分かっているから、「医者」になるということが、どういうことなのかを理解できていない女子でも、十分にあこがれる職業だと思うが、当時はまったく情報がなかった。もしも、私がキラキラな美容皮膚科の先生を知っていたらあこがれの職業になったかもしれない。

私の子供が幼稚園に通うようになって、将来なりたいものについて話すようになったときから、私は子供がなりたいという職業すべてに必ず賛成してきた。それは幼い私がそうして欲しかったことだ。

子供がなりたがったのは、小さな頃から順にプラレールを作る人、お菓子を作る人、電車の運転士、バスの運転士、youtuber、プログラマー、建築家などだ。最近は政治家と言っていた。驚いたが賛成した。

私と私の子供とはまったく違う性格だと思う。子供は嫌いなものは絶対に口にしないし、納得しなければ言うことなど聞かない。子供を育てる中であまりの違いに愕然としたり、私もイヤと言えばどうなったのか、と想像したりする。

さて、にんにくペーストを無理に食べた私が今どうなったかというと、身体は普通程度に健康になった。しかし、ネギ関連はすべて受つけなくなった。見えていれば口に入れない。大人の特権だ。

ポテトサラダに入っているほんのちょっぴりの生玉ねぎも無理だから外食のポテトサラダは食べないことにしている。そば、うどんをオーダーするときには「すみません、ねぎは入れないでください」ハンバーガーをオーダーするときは「オニオン抜きで!」そして、ニンニクは芽を取り除いてからオリーブオイルで炒めたらおいしい香りだから食べる。だけど、食後には自分の口の味と匂いが無理。

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そんなだから、ネギが口に入ったら、すぐに歯磨きをしている。更に「ブレスケア」や「噛むブレスケア」というお菓子?も必須だ。それでもほんの少しの後味が口に残っているのが分かるくらい苦手だ。書いていて自分に呆れる。ということで、子供に嫌いなものを食べさせるのはやめたほうがいい。

それから、これを読んでくださった方の子供たちにはなるべく早いうちから、「医者」「弁護士」「先生」「公務員」「会社員」「自営業」だけでなく、いろいろな職業があるということをぜひ教えてあげてほしいと思う。それが、子供のころに「医者」か「先生」の選択肢しか与えてもらえなかった私の願いだ。

私の子供には、なぜ勉強をするのか、将来なりたい職業に就くにはどうしたらいいのか、誠実に話してきたつもりだ。将来好きな仕事を、好きな場所でしてほしいと心から願っている。