二つ返事
編集プロダクション・アルクでの仕事が落ち着いてきたころ、思いがけず単行本を書かないか、という話が舞い込んできた。
『週刊朝日』でお世話になり親しくもしてもらっていた川口優香里さんが、はまの出版という出版社を紹介してくれたのだ。
はまの出版では月に2冊ずつ新書版のエッセイを出版していた。
88年の10月に出版する予定の本が1冊しか見込めなくて困っているという。
書店での平積みのスペースを一度失うと次の月に2冊出してももう1冊しか並べてもらえないとか。
話を聞いたのは8月だった。
スケジュールを逆算すると4週間で入稿しないと間に合わない。
それでもできるなら書いて欲しい、と社長にいわれ、二つ返事だった。
書きます。
イエス、以外に答えがあるか、いやない、というのがわたしの仕事人生だ。
いまそう思う。
やってみる?
やってくれる?
できそう?
できるかな?
頼んでもいい?
書いてくれる?
ぜんぶ、イエス。
できません、と断ったことはないし、やらせてください、と自分から願い出たこともない。
コール&リスポンスタイプといったらいいいのだろうか。
それともやまびこ型?
そして、引き受けたときには、なにをどう書くのか、まったくなにも考えていなかった。
4週間で240ページの新書1冊書いてわたしはデビューする。
そのことで胸はいっぱいだった。
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