お局さまの指環
『部長さんがサンタクロース』(はまの出版)を出版して、最初にインタビューを申し込んできてくれたのは「夕刊フジ」の三保谷浩輝さんだった。
カメラを肩に一人で荻窪までやってきた三保谷さんは、インタビューの後、外で写真を撮りながら、
「羽生さんは結婚されてるんですか」
と聞いた。
「してるんですよ」
かっこ笑、みたいな雰囲気になった(笑)
それから三保谷さんとは親しくなって、いっしょに競馬旅行にもいく仲間になった。
かっこ前夫もいっしょにね。
三保谷さんは「お局さま」に反応してインタビューにきてくれたらしい。
他からもそんな声が上がってきた。
はまの出版では89年の2月の新刊ラインナップにまた空きが出そうになったらしく、続編を書かないかと声を掛けてくれた。
それなら「お局さま」をフィーチャーしよう、注目されてるから、と編集者と話し合って決めた。
あまつさえ89年のNHKの大河ドラマは『春日局』だったのだ。
今度も全体をなにかの形をなぞって構成することを思い立った。
お局さま世代の愛読誌『婦人公論』がいい。
当時の『婦人公論』はまだ分厚い文芸誌のようなつくりだった。
対談や手記や小説、占い。
すべてお局さまを出席者や筆者、主人公にして書いた。
タイトルのイメージは最初からあった。
わたしが初めて出会った「お局さま」オリジナルともいうべき女性。
地下鉄銀座線に制服姿でちょっと寒そうに乗っていた。
30代の小柄で清潔感のある人だった。
社名の入った淡いブルーの封筒を抱えた左手の中指にサファイアの指輪が光る。
薬指ではなくて中指。
いまでいったら自分にご褒美だったろう。
独身らしく中指に、高めの指輪。
「お局さま」のシンボルだ、と思った。
だからタイトルは『お局さまのリングは中指』。
「二冊めも書けました」と伊丹十三さんに送ったら「いまつくっている映画のエピソードに使いたい」と連絡をくださった。
西麻布のキャンティで伊丹さんは苦笑する。
「よくつけるなあ、こんな怖いタイトルを」
わたしには皮肉の気持ちはなかったから、ちょっと抗議した。
「ほんとにいらしたんです、中指にサファイヤのリングの制服の方が」
「よく見つけたねえ」
伊丹さんは笑いつづけて、
「いまね、男女の話の映画を作っているんですよ、二人の出会いにこの指輪の話、使わせてくれますか」
というのだった。
もちろん、noはない。
試写会に招待されていってみたら、津川雅彦さんが電車で痴漢とまちがわれ、相手の宮本信子さんに毒づく。
「なんだ思わせぶりに中指に指輪なんかしやがって」
その後二人が親しくなるからいいようなものの、憎らしいセリフになってしまったものだ(笑)
映画は『あげまん』。
クレジットに「羽生さくる」は出てきません。
いえ、文句じゃありませんよ、伊丹さん(はーと)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?