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付箋がふさふさ


単行本の編集は、この上なく緻密な作業だった。

文章については自分なりに細かいつもりだったが、それは書くほうの文章。

赤ペンしか持たない編集者として一冊の本に神経を隅々まで行き届かせるには経験と時間を必要とする。

誰にでも最初の仕事というのがあるものだけれど、わたしもここアルクでの初めての書籍と秋山さんにハードに鍛えられた。


結婚したばかりということもあり、家事と仕事のプレッシャーが一度にやってきた。

いま思い出そうとしても、記憶があまり定かでない。


覚えているのは、初稿に貼った付箋(修正箇所の指示がある行の上につける)が大量で、一冊分揃えるとまるでネイティブアメリカンの頭の羽飾りのようだったこと。

それは原稿の段階での朱入れと指定が甘かったことを意味する。

著者との確認作業にも手間取った。


それはまだよかったのだけれど、再校にもまた少なくない付箋を貼らなければならなかったことで、秋山さんに叱られた。

初校で解決すべきところがきちんと解決できていないのは印刷所にも著者にも失礼だと。

おっしゃる通りで、涙目になりながらまた最初から読み返すのだった。


著者の夫人には気に入られ、校正刷りを届けるたびに頂き物をした。

刺繍の入った綺麗なハンカチーフやコースター。

その方の過ごしてこられた半生が感じられたものだ。


この最初の作品での修業が、少し後で自分の本を作るときに役立つことになる。

週刊誌の長くても400文字程度のボリュームから、原稿用紙100枚以上の文章の厚みへと、意識を拡大できたことはとても有意義だった。

秋山さんのご指導のおかげと感謝している。


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