ほんとに見えてないの?(点字の小噺 第4話)

(15、6年前に自分のHPにアップしていた点字にまつわる話です。拙い文章ですが、HPのサービスが終了した為、こちらに転載しています。寛容な心でお読みください。)

A:昨日、学校から帰る時さぁ。白い杖を持った女の人が前から歩いてきたんよ。
B:それで、何かあったの?
A:あったというか…、白い杖持ってるから目の見えない人だと思って、
B:うん。
A:そのまま歩いてたらぶつかると思ってよけようとしたら、俺がよける前にその人がよけて…。
B:見えてたんじゃないの?
A:俺も見えてるのかなって思って見ていたら、そのすぐ先の道の真ん中にあった鞄にはつまづいて、転びそうになっていたんよ。
B:そっか。つまり、君は匂いがひどくてよける事ができたけど、鞄は匂わないからよけられなかったと。
A:おいっ。
B:冗談よ。その人は君は見えていたけど、鞄は見えなかったのかもしれないわね。
A:ん?何言ってんだよ。目が見えないから白い杖持っているんだろ?
B:そうともとも限らないわよ。少しは見えるけど視野が狭かったり、暗いところでは全く見えにくくなる人だっているし。
A:視野が狭いって?
B:つまり、見える範囲が狭いって事だけど、例えばこうして向かい合って座っているあなたの顔の一部しか見えないとか。
A:顔の一部ねえ…。
B:わかんない?じゃあ、ほんとうに真っ暗闇なところで懐中電灯一つ持って歩いている事を考えて見てよ。
A:う~ん。子供の時、真っ暗な草むらを懐中電灯もって歩いていて、いつ蛇がでてくるか怖かった覚えが…。
B:まあ、懐中電灯は結構広い範囲が見えるから、普通に歩けるとは思うけど。確認できるのが、10センチぐらいの、缶詰のふたぐらいの大きさの範囲だったら、歩くのは大変でしょ?
A:そんな事言われてもねぇ。
B:だって、物が止まっているとは限らないじゃない?1、2秒前に確認したから大丈夫と思って、もっと前の方を見て歩いていたら、横からイノシシが来て、通せんぼするとか。
A:それは、ないない。
B:例え話よ。
A:でも、一瞬前に確認したから、鞄がないと思って歩いていて、いきなり鞄があったら怖いわな。そっか、昨日のはそういうことかぁ。
B:でも、君が臭かったから、それで君をよけたという線も捨てられないとは思うけどね。
A:そんな訳ないって。一週間に一度は風呂に入ってるし。
B:………。

 目が見えないって聞くと本当に目隠しをしたように全く見えない事を想像してしまいがちです。ですが、それは、本当に人それぞれです。
 まず、眼鏡をかけている人がいますよね?眼鏡をかけていない人から見ると眼鏡を外したら、さも周りの事なんて全くわからなくなってしまうのではないかとも思ってしまいます。
それに、眼鏡をかけている本人も「眼鏡がないと全く見えない。」なんて言っていたりするので、なおさら眼鏡がないと見えないのではないかと思ってしまいます。
ですが、確かに眼鏡がないと黒板の字が読めなかったり、目が疲れるので大変ではあるのですが、見えないと言いつつも結構見えているもので、誰がどこにいるかとか、周りの様子がどうなっているかという程度の事はわかるものです。
 さて、話は本題に入りますが、低視力と言った場合、矯正視力(眼鏡などをかけた状態で)0.3以下になると日常生活に不便を感じるようになり、0.03になると、普通の文字を使う事ができるかどうかの境界線だとも言われています。ですが、これはあくまで目安であって、中学を卒業したら簡単な英会話ができ、高校を卒業したら微分積分ができると言うようなもので、そのまま鵜呑みにはできません。
 と言うのは、弱視と言った場合には、ただ視力が低いだけ、見えないだけで話が終わらず、話はもっと複雑だからです。例えば、視力が低い事に加えて、視野が狭いという時にも、視野の中央だけが見える人もいれば、端の方だけ見える人もいます。全体にぼやけて見える人もいれば、斑点のようなものがいくつも見える人もいます。また、特定の明るさで見えたり、見えなかったりする人ですとか、ある色が見えにくい人、明るさだけはわかる人など、本当に様々です。ですから、文字を読む場合でも、ある人は視野が狭いので字の大きさが大きすぎると逆に読みづらくなってしまったりですとか、
別の人だと字を大きくするだけでなく、色を反転した方が読みやすいという人もいますし、アンダーラインを引いて欲しいという人もいます。
 また、全く見えない人に比べて弱視の方は周りの理解をなかなか得られません。例えば、白杖も持たずに歩けるのだから、目は見えているじゃないか。
頑張ればどうにかなる。あなたに対しての特別な配慮なんてできない。それは特別扱いだ。と、いうような事です。でも、工夫をしてある程度対応する事はできても、自分の視覚自体を改善はできないので困っている訳です。ですので、その人にとって本当に必要な事を本人と話しながら考える事は重要です。
現実的に全て実現できなくても、配布試料の文字を大きくしたり、アンダーラインを引く程度の事は簡単にできますよね。

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