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プロがやってる仕事って簡単そうに見えるよね

先日、ちょっと厄介な仕事のご依頼が。

数年前に当地に台風が来た際に、「窓に養生テープを貼り付けると良い」というライフハックが紹介されたことがありました。
当地の人々はこぞって窓ガラスにテープを貼ったのですが、台風が過ぎたあともそのまま放置。そのテープ痕を、今さら何とかしてほしいというご依頼です。

粘着力はとうになくなり、ガチガチに固まったシール痕。お客様は80代女性。シール剥がしスプレーを吹き付けてみたものの効果はなく、知り合いづてに私のところまで話が来たのでした。

と、まぁ、仕事はたしかに面倒ですが、ポイントはそこじゃないのです。

早速作業を始めた私の手元をじっと見つめるお客様。
そしておもむろに、

私にも簡単にやれそうだから、道具を貸して下さい」と。

これが、今回の「困ったポイント」です💧


■簡単そうだけど簡単じゃないプロの仕事

お分かりいただけると思うのです。
「ガラスに貼った(しかもガチガチに凝固した)シールを剥がす」ことがいかに大変な仕事か。

シール剥がしスプレー、めちゃ落ちそうなネーミングですが、素人が吹き付けたところで全然効きません。

これが、私の手にかかると、あぁら不思議! なぜかプラスチックのヘラで簡単に落ちていくのです。

お客様は私の手元を必死に覗き込みます。
そして、シール剥がしスプレーではない「何か別のもの」を吹き付けていることに気付いたようです。
「あのう、それはなにか特別なスプレーですか?」
「うふふ、実は単なるアルコールスプレーなんですよ」
「まぁ!」
「実はこれ、シール剥がしスプレーよりよく落ちるんですよ〜」

この程度の情報はネットにも乗ってるので惜しげなくお教えします。シール剥がしスプレーがなくても手持ちのアルコールスプレーで落とせるし、知っておいて損はないですもんね。

するとお客様、仰るのです。
「それなら私もやってみます。スプレーとヘラを貸して下さい」

…ここで私の動きが止まります。
確かにアルコールスプレーでよく落とせるのは事実で、その知識はいくらでもお客様に共有してさしあげるのですが、

「作業を一緒にやる」と言われると、ううむ、困る…(-_-;)

■プロの仕事には理由も技術も経験もある

簡単なように見えて簡単じゃないこの作業。
わざわざプラスチックのヘラを使うのはもちろんガラス面に傷をつけないため。
おまけにお客様宅のガラスは古く薄いため、力をかけるとそれだけで割ってしまいそう(※だからこそ養生テープを貼りまくったのでしょうけど…)

「シール剥がし」のご依頼は結構多く、私は慣れてるのですが、それでも緊張します。
それを、初見のご老人が、一発でできるわけはないのです…。

それでも「やってみたい」と押し切られ、不運にも(笑)もうひとつプラスチックのヘラを持参していたのを目敏く見られていたものだから、お客様にお渡ししました。

ま、もちろん、落ちませんでしたけどもね!

さて話はこれで終わりません。
古いシール痕、プラスチックのヘラでは効率が悪く(それでもお客様の数倍のスピードで落としていきました)、私は金属ヘラ(スクレーパー)に持ち替えて作業を開始。
ちなみにプラスチックのヘラから作業を始めるのは、ガラスの強度やシールの状態を見ながら判断するため。
ガラスは古く薄いけど「私の実力と経験を持ってすれば金属ヘラでもいける」と確信したので持ち替えたのです。

――が!
またもお客様は私の手元を凝視しています。
そして急にいなくなったかと思うと、手に数本の金属ヘラを持って戻ってきました。
「うちにも似たようなのがあったのを思い出しました」
見れば幅20センチ以上はある巨大な金属ヘラ。手入れも悪くところどころ錆びています。
対して、私が使っていたのは幅5センチほどの小さなもの。日々使っているのでメンテナンスは欠かしていない、きれいなモノです。
なんでこのサイズかと言うと、シールの幅以上のものを使うとガラスを傷つけるからに他なりません。しかも金属を使うことで、更に細かで慎重な動きを要求されます。熟練の技なんです…!

なのに幅20センチのヘラ(錆び付き)でガラスを擦ろうとしているお客様。

「ああああ〜奥様! 奥様! それは! ダメですぅぅぅ!!!」

必死に止めました…💧
もちろん、丁寧に理由を説明し、ご納得いただいた上で、お客様にはプラスチックのヘラで頑張っていただきました💦

■簡単に見えてこそプロの仕事、だけど「誰にでもできる簡単な仕事」なわけじゃない

文字を書く、絵を描く、ピアノを弾く、そして掃除をする――
どれもプロは簡単にやりますが、だからといって「簡単にできる仕事」じゃないんですよね〜。

ピカソがレストランで食事中にファンから「絵を描いてほしい」と頼まれ、30秒で絵を描いてやった。そして「この絵は1万ドル」と金額を請求。
ファンが「30秒で描いたものにそんな金額を?」と抗議するとピカソは
「30秒ではない、30年と30秒だ」と答えた、とかなんとか。

「家事」とはいえ、私ももう10年以上もお金を頂いてやってますので、楽そうに見えても10年分の見識と技術はあるんだな。

それでもお客様、必死に頑張ってらっしゃいました。
ちなみに私は7枚の窓のシールを落としたのですが、同じ時間内にお客様は1枚の半分しか落とせませんでした(笑)

お客様からはすごいすごいと褒めてもらえて私も嬉しいですが、これがプロってものなので!

もしサポートのご意思があるなら、お気持ちだけで。別の困っている方へ直接ご寄付ください。私と私の家族は元気なのでnote経由のサポートの必要はありません(*'ω'*)