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等々力渓谷

誰にでもあるのだろうか。

自らの意思で諦めた恋が。

手放した愛が。

私を苦しめるのは、それが。時々蘇らせるあの頃の記憶が。とても鮮明で。まるで色鮮やかな夢を歩いているようで。


あの時、繰り返した。何度も何度も。頭の中で。
何度も何度も、出て行こうとした。

この夢から。

あなたとの幸せは続かないと、わかっていたから。



あなたは言った「君ともっと早く出会いたかった」と。
私には、意味が分からなかった。
彼がはじめて私に伝えた私への気持ちだと、気づきもしなかった。

あなたは言った「一緒に暮らさないか?」と。
私は、答えなかった。
だって、それは叶わないことだと知っていたから。
なのにあなたの瞳の奥の光が、揺らぐから、
私はあなたを愛おしい。とその時はじめて認識した。

私が戻ってきて。たばこを吸うようになっていて。それからあなたはいつもたばこを吸いに行こうと誘ってきて。
あの夏の夜は、なぜか空気がひんやりとして、空が澄んでいて。でも、月がなくて。
真っ暗な闇にたばこの火がちらちらと、揺れていて。
あなたを照らして。
はにかんだ顔をしていたような、そんな気がして。
その顔が、なぜだかわからないけれど。忘れられなくて。




たった数年前の話だ。

2017年、4月。

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