旅行土産に、ご縁の神様。
今やおじいちゃんおばあちゃんでも、スマホ片手にキャッシュレスで買い物する時代。たとえ海外でも、両替せずにクレジットカード一つあれば過ごせる便利な世の中。
そんな便利な世の中にも変わらない、人のぬくもり。きっと世の中にはたくさんの暖かな物語があるはず。
暖かく、小さな、わたしの物語。
あれは昨年の秋のこと。
GoToトラベルを利用して、大阪と京都へ行き、初日に見つけた何とも粋なお店がはじまり。
京都に到着したのも遅く、手軽にご飯を済ませたかったので、適当に探してお店へ向かう。
そこは、京都市内から少し外れた住宅外のなかにある、こじんまりとした焼肉やさん。
地元の人で賑わう店内は、東京では珍しいカウンターコンロでの焼きスタイルで、昭和の香り漂う店内とは裏腹に、威勢の良さそうなお兄ちゃんが焼いてくれた。
地元店のため閉めるのが早いのか、半ばオーダーを急ぎ注文をした。
ただ何とも言えぬ地元感に、ちょっと浮いていた。疎外感なのか、当の本人たちだけが感じる染まりきらない異質感。
それでも常連の方に混ざり、
よそ者観光者オーラーが全開の私たちは、
美味しいお肉を勧められるままに食べる。
威勢の良いお兄ちゃんも、目の前でお肉を焼いてくれながら、気の利いた会話をしてくれる。
美味しいお肉と、どこか異質なふたり。
ちょうどわたしのすぐそばには、
一目で堅物そうに見える店主が、
美味しそうなホルモンを黙々と焼いていた。
地元のお店に観光気分な若者ぐらいに思われてるんだろう、と思っていた。
威勢の良いお兄ちゃんが離れない後、
寡黙な店主がぽつりと
『どこから来たんですか』
少々ビックリした私たちは、
東京から来たことや、プライベートの旅行も兼ねてホテル巡りをしてることなど話した。
どうやら寡黙と思ってた店主は、
私たちに気を遣ってくれていたようで、
会話をするタイミングを見計らってたようだった。
コロナの影響があるのかと
初対面ながら食い込んで聞いてみたが、
地元の常連客に強いこのお店は、
逆に観光地としてインバウンドの影響でお店の雰囲気が様変わりしていた頃と比べるともとの地元の活気を取り戻せているようだった。
お腹も膨れ人もお会計をするタイミングで、まさかのカードが使えないことに気づくふたり。
コンビニまで走れば5分。
すっかりキャッシュレスな時代に慣れ、
現金を待ち合わせることも
少なくなってしまった。
かき集めても2000円強足りなかった。
入るときに気づくべきだったと後悔しつつ、
素直に店主へ伝えて、
コンビニへ行こうとしたとき
『お勘定はあるだけで良いから。早くお店閉めたいし、このお店GoToとかやってないのに、わざわざ来てくれたお礼だよ』と。
粋な言葉を言う店主に感動しつつ、
心からのお礼を伝え、
お言葉に甘えさせていただいた。
後日、旅行から帰ってきたあとに、
この粋な計らいが忘れられず、
私が働いてるホテルのグッズなど気持ちばかりのお礼と手紙を添えて送った。
その後、ご丁寧に御礼のお電話をいただき、年末には京都のお漬物をどっさりと贈ってくださった。
何だかこういう優しさのリレーって嬉しい。
一度きりの出会いとか関係なく、
人の心意気がシアワセにする力って
お金では買えない。
たった一度訪れた旅先のお店。
ただそこには、店主の人柄を心から感じる素晴らしい体験ができた。だからこそ、地元の方に愛され続けることができるのだろうと思う。
こんな時期だから旅に行く機会は減ってしまったけれど、人の優しさに触れる機会は日常のどこでも転がっているはずだ。
厳しいコロナ渦で先行きが見えない不安な今だからこそ、何気ない毎日のなかから、たくさんの優しさに気づき、感謝し合うことで、『今』だからこそのご縁が生まれるかもしれない。
これからも店主とのご縁を大切にしたい。本当は直接お店に行くことが一番なのかもしれないけれど、気持ちを贈りつづけたい。
江畑
075-463-8739
京都府京都市上京区六軒町通下ル長者町東側四番町148-1