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「Zuzalu」、クリプト、AI、長寿などをテーマに開催されたポップアップ都市コミュニティを紐解く

ヨーロッパの東に位置するモンテネグロという国をご存知でしょうか?
人口はわずか62万人、面積は福島県と同規模のとても小さな国です。(詳しく知りたい方は外務省のサイトへどうぞ)

今年の3月から5月にかけて、この小さな国に、Ethereumの考案者であるヴィタリック・ブテリン氏やAI、合成生物学の研究者、さらにはイーロンマスク氏の元奥さんなど多様な人々が集まっていたと言われています。

一体そこで何が行われていたのか?その内容を数回に分けて紐解いてみたいと思います。

Zuzal HPより(https://zuzalu.city/about)

ちなみに、5月にはお隣の国、クロアチアで「Financial Cryptograpy and Data Security」という国際カンファレンスが開催されていたのでクリプト関連の人はこちらを行き来していたかもしれません。
このカンファレンスは今回で第27回となる由緒あるもので、a16z cryptoなどがスポンサーになっています。参加者の名前を見ると、欧米の大学研究者やa16zのリサーチメンバー、日本関連だと東大の方や産総研の方、NTT Researchの方などが名を連ねています。

Zuzalu = イベント?カンファレンス?コミュニティ?

まず最初にお伝えしておきたいことは、この「Zuzalu」は、それを何と表現するかがとても難しいということです。Zuzaluは非常に多様な側面を持っています。

Zuzaluに参加したBanklessのDavid Hoffman氏も「Zuzaluが何だったのか?、と参加者に聞いたら、人数分(200人)の異なる答えが返ってくるであろう」と述べています。

そんな掴みどころを探すのが難しいZuzaluですが、まずは「なぜポップアップシティと呼ばれるのか」、昨年発表されて話題となった「Network Stateのコンセプトを最初に実現した取り組み」となぜ言われているのか、そのユニークな開催形態を見てみたいと思います。

ハッカーハウスよりも大きく、カンファレンスよりも長い

Zuzaluの特徴の一つが、2ヶ月という非常に長い開催期間です。
発案者の一人とされるヴィタリック・ブテリン氏は、Banklessのインタビューの中で以下のように表現しています。

Zuzaluは、10人〜20人ほどが集まるハッカーハウスよりも規模が大きく、ハッカーハウスよりも参加人数は多いが数日から1週間程度しか開催されないカンファレンスよりも長く、その中間に位置するようなもの

このZuzaluがポップアップシティと呼ばれる一つの理由が、約200名が2ヶ月間そこで実際に生活しながら、さながら期間限定の都市がそこに出現したかのように、進んでいくことです。

Zuzaluが開催されるのはLustica Bayと呼ばれるエリアで、参加者はそこにあるアパートメントに宿泊したり、AirBnBで家を借りたりすることができます。そして、宿泊費や食費はもちろんかかりますが、ジムやアクティビティへの参加は基本的に無料で可能となっています。

Travel+Leisure Aisaより

MIT Technology Reviewの記事によると、富裕層向けに設計されていると言われるこのリゾートでは、Whatsappを使って、リゾートの従業員が運転する無料のゴーカートを使って移動することもできたと言われています

この期間中、参加者はイベントやアクティビティに参加したり、また、自ら企画・運営したり、参加者自身で能動的に行動し、コミュニティを構築していくことが求められます。

ですので、カンファレンスに話を聞きにいくというよりも、ハッカソンなどのように自ら積極的に関わり、交流していくことが奨励されています。実際にZuzaluのミッションとして以下の内容が述べられています。

世界中から聡明な頭脳を集め、カジュアルに食事をとりながら、ラブセン山へのハイキング中に、あるいはワークショップで隣り合わせになりながら、世界で最も複雑な問題についてブレインストーミングを行う。そして何よりも、ここで最高の友人、将来の共同創設者、パートナーに出会ってほしいのです。
これは「イベント」ではなく、人生の2ヶ月を過ごす素晴らしい場所なのです。歩き回れば、誰とでも魅力的な会話を交わすことができます。

Zuzalのカルチャー

そして、これらの考え方はZuzalのカルチャーとしても明文化し、発表されています。少し長いですが、その一部を抜粋してみます。

私たちは、個々人が自分の経験を主体的に行う、積極的で参加型の体験を創造することを目指しています。

他人があなたを楽しませたり、あなたのために経験を創造してくれることを期待するのではなく、むしろ共創的なプロセスを試してみてください。

参加者全員の多様な貢献を豊かにするため、さまざまな立場でのボランティアが大いに奨励されます。環境や参加者同士が関わり合うことで、参加者は自分にとってユニークで有意義な経験を自ら創造する力を与えられます。参加という原則は、誰もが提供できる何かを持っていることを強調するものであり、その貢献の多様性こそが、イベントを活気あるものにし、つながりを生むのです。

私たちは皆、世界にポジティブな変化をもたらす能力を持っており、自分自身と他者のためにより良い未来を創造するために積極的な役割を果たすことで、現在に存在し、関わり合い、つながっているコミュニティを築くことができると信じています。イベントを共同創造することで、参加者は互いにつながりを築き、ゲシュタルト、つまり部分の総和よりも大きな共有体験を生み出す。

まとめると、Zuzaluでは、積極的な参加、共同創造、多様な貢献、コミュニティの構築を優先しています。そのゴールは、熱心で現在進行形の参加者が集う、活気とつながりのあるコミュニティを創造することです。

このように、参加者の積極的な参加や貢献、交流、そしてコミュニティの構築が奨励されています。また、Zuzaluというコミュニティを成り立たせる上でのガイドラインも発表されており、詳細は割愛しますが、以下の6つが掲げられています。

1. Respect each other|お互いの尊重
2. Don't Flaunt|誇示しない(SNS上での過度なZuzalu体験のアピールなど)
3. Celebrate our Differences|違いを讃える
4. Protect our Space|暴力やハラスメントなどの防止
5. Maximize this experience|この機会を最大限活用する、その手助けをする
6. Consent|参加者同士の繋がりやコミュニティにおいて「同意」が重要

Zuzaluというのは一つのハッカーハウスともカンファレンスとも違う、そしてNetwork Stateのコンセプトの体現を試みる、新しいコミュニティづくりの社会実験という要素を持っていると言えそうです。

ここまで、その独特の開催形態を見てきましたが、ここからは、もう少し具体的な内容、一体誰が、どのような目的で集まってきたのかを掘り下げてみましょう。

誰が、何のために集まってきたのか?

ここで改めて、ZuzaluのHPに書かれている概要を見てみたいと思います。

Zuzaluは、2023年3月25日から5月25日まで、モンテネグロのルスティツァ湾に建設される初のポップアップ・シティ・コミュニティである。そこには200名ほどの中核的な居住者が存在し、健康的な生活を送ったり、共同作業をしたり、イベントを通じて合成生物学やZK、公共財、長寿、Network Stateなどを学ぶことができる。

上記の通り、このZuzaluの中核の一つが、合成生物学やZK、長寿といった先端テクノロジーに関わる人々が集まり、それぞれの領域の取り組みをシェアしたり、コラボレーションを促すことにあります。

特に、MIT Technology ReviewやDecryptなどの記事を見ている限り、「長寿」や「合成生物学」といった領域への注目が非常に高かったように伺えます。(合成生物学は世界的に見て、ベンチャー投資の中でもホットな領域の一つです)

このZuzaluには、前述の中核的な居住者200名に加えて、数百名が一時的に訪れていたとされます。そこには、クリプト関連から大手製薬企業、政治家、研究者など多様な顔ぶれがいたとされます。

ちなみに、自己申告制ですが、ZuzaluのHomepageで居住者の一覧が掲載されています。興味ある方はご覧ください。

そして、長寿など健康に興味を持つ参加者も多いことから、日々ワークアウトやハイキング、冷水浴、サウナ、健康的な食事、メンタルヘルスなどに関わるアクティビティが開催されていたようです。

こうした、いくつもの先端技術、その多くはこれからの人類の生活を大きく変える可能性がある領域に関わる人々を集め、その領域を跨いだ人とアイデアの交流を促すこと、また、こうした人々による新たなコミュニティ構築にチャレンジしたのがZuzaluです。

次回以降では、合成生物学やAI、クリプトなど、なぜこのようなテーマが選ばれたのか、それらはどう関係し合うのか?また、どのようなイベントが実際に開催され、何が話されていたのか、その内容を掘り下げていきたいと思います。




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