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天谷宗一郎に続け!今年8月に起こる奇跡のプレー。

毎年、6月初旬になると「フマキラー蚊とり線香」を使い始めます。
ほのかな匂いと一緒に細くあがる煙を見ると、思い出すのです。

スパイダーマンキャッチ。
2度しかマツダスタジアムで起きていないスーパープレーです。

最後に見たのは、2010年8月22日でした。
対戦相手は横浜DeNAベイスターズ、ハーパーの打席です。カープの齊藤悠葵が投げると、高く打ち返されました。
「うわっ」テレビを見ていた私は声を上げました。スタンドから歓声があがり、真っ暗な空をボールが勢いよく飛んでいきます。
アナウンサーの「いやー、これはどうかな」の声に、「入っちゃうよー」と諦めて言ったのを覚えています。
明るいグラウンドに画面が切り替わると、外野フェンス「フマキラーベープ」の文字の上に登り、天谷宗一郎が!
海老のように背中を反らせると、右手のグローブにボールがすとん、と入りました。
私は「あ」と「お」が混じった叫びをあげ、アナウンサーは「ええっ、ええっ」としか言いません。
割れそうな歓声のなか、マウンドの齊藤の口は大きく開いています。

興奮が冷めないスタジアムの真ん中を、天谷は照れくさそうに、ベンチに戻って来ました。白い歯がやたら照明に輝いている中、私は「すごいよ天谷、すごいよ」とくり返していました。


天谷のちょっと前、2010年8月4日にもカープの赤松真人がベイスターズ戦でフェンスに跳び登り、村田修一のあわやホームランの打球をキャッチしています。
立て続けに起きてから、15年。
すっとカープを応援していますが、一度も見ていません。

この季節になると思うのです。
スパイダーマンキャッチを、もう一度見たい。

天谷は守備、走塁のスペシャリスト。思いきりのいいダイビングキャッチで何度もチームを救ってきました。2018年に引退し、今はRCC、中国放送の解説者をしています。解りやすく、どのチームにも公平なので広く人気があります。
「偶然にいろんなものが重なって起きた」、のちに天谷は言いました。
もちろん守備や試合の流れの偶然の事ですが、2人のスーパーキャッチは不思議な共通点が多いのです。
マツダスタジアム16年の歴史の中で、2010年8月に2度だけ
ホームランから救われたのはどちらも齊藤悠葵で、対戦相手は2回ともベイスターズなのです。

偶然が重なれば、再びスパイダーマンキャッチは起こるかもしれません。
もう一度見られる可能性を調べることにしました。

まずは、スパイダーマンキャッチを誰がするか、です。
「偶然が重なる」のは、人生に一度あるかないかないかです。
そこで名前に気づきましました。赤松、天谷ともイニシャルA
次のイニシャルAの外野手が有力候補です。
カープはこれまでに36人のイニシャルAが所属し、そのうち外野手は10人。マツダスタジアムが出来てからは天谷、赤松の2人だけでした。
しかし2019年に赤松が引退。イニシャルAは途絶えていたのです。

2022年、イニシャルAの外野手、秋山翔吾が移籍してきました。
打って、守って、走ってよしで、守備が上手い選手に与えられるGG賞を6回受賞しています。西武ライオンズ時代の2018年7月には、メットライフドーム(現ベルーナドーム)のフェンスに飛び上がり、しがみついてキャッチをしたことがあるので、見込みも充分です

天谷にとって投げていた齊藤は高校、福井商業の後輩でした。
秋山には八戸大学(現八戸学院大)の後輩投手、大道温貴がいます。八戸学院大を卒業した選手は現役で4人しかいないので、同じ球団なのは運命的です。
加えて秋山が選んだ背番号9は、元カープ監督の緒方孝市の現役時代の番号です。マツダスタジアムは緒方がエキサイトプレーを観客に見せたいと希望し、登れる高さのフェンスになりました
背番号と一緒に熱い想いが秋山に受け継がれているはずです。

さて、8月に2回の謎です。
確かに広島にとって8月は特別で、選手も観客も気持ちが入ります。いつも以上にマツダスタジアムは赤く染まり、声援も大きくなります。
先祖代々カープファンが多い土地なので、お盆は何があっても不思議ではありません。

誰が打つのか、またベイスターズなのか、最後まで悩みました。
引き立て役をお願いするので、申し訳ない気持ちがあるからです。

今年4月、筒香嘉智のベイスターズ復帰が発表されました。
「25番、来たー」、思わず叫びました。
赤松の時に打った村田修一は背番号25。天谷はハーパーで背番号42でしたが、今は投手のジャクソンで打つのは厳しそうだったのです。
そこに2016年の本塁打王がアメリカから古巣に復帰。秋山も同じタイミングでメジャーリーグに挑戦しているので、ご縁も深いはず。
そう思った時、ふと浮かんだのです。
秋山と筒香がお互いを称え、ハグをしている姿が!

8月のベイスターズ戦。
センターは秋山翔吾でマウンドは大道温貴。
バッターは筒香嘉智で奇跡が起きるのです。

「秋山って、膝の手術をしたばかりじゃないの」。
ここに来て夫が言いました。順調に回復し、開幕から軽やかなプレーを見せていますが、今年で36歳。無理は禁物です。
もはや神頼み、足腰のお寺に行くことにしました。標高640m、車で行けるところまで登り、あとは歩きます。参道でリュックの熊鈴がチリンチリン。

参拝の後、展望台に行きました。
連なる山々の向こうにスカイツリーが見えるそうですが、霞んで見えません。
ですが、私の気持ちははっきりしました。

もしスパイダーマンキャッチが起きたら。
天谷宗一郎を思い出して貰える。
天谷のことをもっと沢山の人に知ってもらえる。

8月はすぐそこです。
かなうならば解説は天谷であって欲しい。

祈りながら、山道をゆっくり帰りました。




2024年 応募作品、加筆修正あり。

8月のベイスターズ戦は8/1、8/12、13、14です。
大道選手、筒香選手は現在(7/22)は2軍ですが、奇跡を待ってます。

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