介護やってみよう!④

デイサービスでの長い長いコミュニケーション中心の研修が終わると、次は本格的に療養棟、いわゆる世間一般のイメージする『介護』の
現場での研修が始まった。

当時、2階は満床で60名。
3階は満床で40名の利用者様が入所出来る居室数があり、入社以外にもショートステイでの利用等も積極的に受け入れていた。
懐かしいコロナ禍の前の話である。


配属先は3階という事で、まずは2階のフロアにて1週間の研修となった。ここで僕は、特養の人間関係の難しさを痛感する事となったのだ。

施設で働く職員の数はなぜかいつもカツカツで、なぜか常に業務に追われているのが従来介護施設の永遠のテーマだとは思う。
そして。2階は3階に比べて、それが顕著な
フロアだとは事前に聞いていたが、まさに
戦場の如く動き回る職員と、顔と名前もまだ全く分からない60人近い利用者の方々。
パッと見では歩けそうなのに、立ちあがろうとすると「○○さん!危ないから座っといてな!!」とすぐさま職員が注意する。

そして大半の方が食事時以外は寝たきりで、
トイレには行けない状態の為、60名の内半数以上の方のオムツ交換をして回る。
それが終わると、食事の為に一斉に離床介助、職員が利用者の方々を介助してベッドから車椅子に移ってもらい、食堂まで誘導する。

一見単純、いや実際単純なのだがこれはとても時間と体力が削られる。当然心のゆとりも無い。そして僕は研修中。逆に手伝う事も出来ず、フロアで利用者の方々とコミュニケーションでもとるか〜と思って話しかけに行こうとすると「ちょっと、その人今から寝かせなあかんからどいて!」鬼気迫る勢いで先輩職員が風の如くその方の車椅子を押して消えていった。
「うわ〜、やりずらいな〜。」と困っていると、そのフロアの責任者の方が「パニック君は3階配属やねんな?残念やわぁ〜!まぁとりあえず2階の事は見学しとく位の気持ちで気楽にやっといてな!」と優しく声をかけてくださった。役職に就く人間はやはり違う。
その人柄で僕はその時にかなり救われた。

それでも初めて見る従来型施設の、職員の手際の良さと早さに僕は圧倒されていた。
基本的にずっと職員が動き回り、利用者の方々は従順にも言われたとおりフロアでずっと座っているか、寝ているか。
その当時の施設の雰囲気を見て、介護初心者の僕は「これが施設の中の実情なんやな〜。」とぼんやりと考えていた。

そんな中、また有難い事に僕の研修指導についてくれた先輩はとても良い人だった。

「俺が指導して良いんかな??俺まだ入って1カ月経った位やねん!だからあんまり教えれる事とか無いけどよろしく!」と50代位のいかにも優しい雰囲気の人と2人で、手持ち無沙汰なので、排泄介助や食事用のおしぼりをそれぞれ分けて、水で濡らして絞って畳むという作業をひたすら雑談しながら繰り返していた。
それが2階での研修中の僕のメインの作業となった。

そんな中でも時折時間にゆとりが出来る時があり、その時間を使って実際にオムツ交換の見学や実践をさせてもらったり、移乗介助を教えてもらったりしていた。
そんな中、忘れもしない出来事が起きた。

シーツ交換を教えてもらい、僕は出来るところのシーツを交換して回っていた。
介護施設によって、このシーツの張り方や
布団の畳み方は多少違うものの、僕は何せ
ど素人。習ったやり方を頭の中で思い出しながら、自分なりに丁寧にやっていた。
ただ「なんか綺麗に出来へんなぁ。やっぱ俺不器用やな〜。」と自分でも感じていたが、
急に「ちょっと誰?!このシーツやったん!!」と大声が聞こえると、ナースシューズ独特のコツコツという足音と共に、
いかにも元ヤン丸出しのお局様が現れた。
「すいません!僕です!」こういう時の言い訳は悪手だ。ひとまずすぐに謝ると、
「ちょ、めっちゃ汚いやん!やり直してきて!!」との事。
「分かりました!すいません!すぐやり直してきます!」と僕は素直に言われた通りにまたシーツ交換へと向かった。
そしてお局様は、何やら談笑を始めていた。
他の先輩職員は誰も僕の方をみないように、知らんぷりで仕事をしていた。

なるほど。分かりやすい上下関係やな。
僕にとってはこれぐらいは全くもって想定の
範囲内だったので、特に気にならなかったが、「今後自分の身を守る為に、色々な職員と
仲良くしておこう。」と心に決めた瞬間であった。
“介護職はコミュニケーション能力が大事″
と言われるのは、残念ながらこういう人が実際に多くの施設にて、生息しているという事も
そう言われる理由の一つだと僕は思っている。

まぁこれは一昔前の話なので、現在はここまで分かりやすい人はいないとは思うというか、
いなくなっていて欲しいと心から思う。

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