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甘噛み

あだ情け


私をまっすぐ見る眼差し。

彼の左薬指にキラキラ光るシルバーリングと

私を強く抱くこんがり日焼けした腕が、

交互して確かなものだと言う息吹を感じた。


2021.5.31
遡れば、数年前までまさか男女の関係になるとは思わなかった。

2024.12.24
私は不孝な紅色と魅惑の藍色を混ぜた夜のベールの中に居て、一刹那、彼の体温の温かさに浸っている。

甘いとろける言葉で探せば、
砂上の楼閣のように消え去ってしまうのでは、と、頭をよぎる。

彼、小西広伸(こにしひろのぶ)さんのお腹の肉を恋しく軽く噛んだ。
「痛いよ。美杖(みつえ)、どうした」と言って
優しく微笑みながら私を覗き込む。
「いたずらしただけ。動物みたいに噛んじゃうよ」
私はおどけながらくるりと背中を向けた。
「かわいいな」
と言いながら広伸さんは後ろから包むように抱きしめてきた。
私はその腕の温かい手に触れる。
肩ごしから彼の吐息が伝わっていく。

不確かな愛をまさぐるように
私は広伸さんの親指をつめたいくちびるで
甘く噛んだ。
「痛いな」
振り向くと広伸さんは、困惑をにじませながらも
不戦した戦士みたいな瞳を向けてきた。
「どこにも行かないで!」
彼の首に腕を回ししがみついた。
私はいつの間にか涙をツーっと流していた。
「美杖…」
彼は自分の太い指で私の涙を優しく拭い、
「行かないよ」と言うとシーツごと私を
強く強く抱きしめてきた。

離れる時間になったら、
サヨナラとか
バイバイも言わない。
シンプルにまたね、でいいの。

好きとか
愛してるも言わない。
それを言うとあだ情けのように
終わる気がする。言葉はいらない。
ただ、目に見えないものを信じたい。

帰ってゆく
場所がある広伸さんに
私は何度も何度も
甘噛みをして、その跡を残し
うたた寝から醒めて
見届けるのだから…。



いつきさん帯ありがとうございました♡




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美杖
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