【全文無料】見た目問題の難しさ

『この顔と生きるということ』を読んだ。

以前にマガジンでも書いたが、『顔ニモマケズ』を読んだその流れである。

この『この顔と生きるということ』の著者は朝日新聞の記者で、長男に「顔面右側の表情筋の不形成」の症状がある。そのため長男の表情は左右非対称となり、顔が歪んだ状態となっている。つまり見た目問題の当事者に近い立場だ。

記者が書いているだけあって、より突っ込んだ質問を当事者にしているし、登場する当事者も『顔ニモマケズ』と比べて多様性がある。両方の本に登場した人も多いが、やはり著者が異なると印象も異なるようだ。

『顔ニモマケズ』はサブタイトルにも書いてあるとおり、『どんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語』である。そのため大筋がどれも似たものとなっている。見た目で苦しんだ人々が、それぞれのやり方で困難を乗り越え、幸せを掴み取る。そういうストーリーである。

対して『この顔と〜』の方は、シチュエーション別に「どんな苦労があったか」にもページを割いている。もちろん乗り越えていく話もしっかりあるが、どんな苦労してきたかを深く知ることで、その印象は変わる。

また、『この顔と〜』では、その一方でその変わった見た目を武器にしている人も紹介される。その筆頭であるアルビノ・エンターテイナーの粕谷さんは、「苦労を乗り越えた当事者が前向きに生きる感動ストーリーはやめませんか。当事者像は一つじゃない。楽しく生きている人のことも知って」と述べ、「苦労している」と思われる方が嫌だと言い切る。アルビノの人は他にも登場するが、主張は人によって異なる。

これは他の症状の人でも同じで、「気にしないでもらいたい」と思う人もいれば、「理解してほしい」と訴える人もいる。本書に登場する人、つまり顔を晒せる人だけでも違うのだから、「見た目問題はどうあるべき」と語るのは難しい。

『顔ニモマケズ』が悪いとは言わないが、『この顔と〜』の方が多様性があってよかった。そう思いながらAmazonのレビューを見たところ、それでもまだ当事者によっては偏りがありすぎるらしい。

『この顔と〜』のトップレビューであるこれは、見た目問題の当事者が書いたものらしい。このレビュアーは読んでいて苛立ちと戸惑いを感じたという。この人は「どうあるべき」とかよりも、完全な当事者でない人が見た目問題を使って社会運動することそのものに拒否感があるようだ。やはり当事者も色々である。

ということで次はこのレビュアーが勧めている石井政之氏や藤井輝明氏の本、つまり当事者によって書かれた本を読んでみる。この二人は『この顔と〜』に登場するが、本人によって書かれた文を読んだらまた印象が変わるかもしれない。

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