(朗読台本)不思議なひととき-電車を待つあなたと-
青い目のねずみはどこへ向かい、どんな人と出会うのか。
シリーズものを書きたくて作りました。
出会いがあれば次のお話を更新します。
⭐︎ご利用案内⭐︎
・利用報告は任意です。
ご連絡頂けますと、聞きに行けるので助かります😊
・下記のクレジットを概要欄などに表記お願い致します。
【クレジット表記】
作品名:不思議なひととき-電車を待つあなたと-
作者:うさよし
noteリンク: https://note.com/hondana00_okiba
【OK】
多少の本文変更(読みやすいようにニュアンス・言い回しを変える程度の変更)
【NG】
作品タイトルの変更
以下、台本本文
信じてはもらえないでしょう。
これは、私が体験した不思議なひと時の話です。
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「疲れた…。」
私は、繁忙期でどっと増えた仕事を片付け、帰路につくところでした。
疲れた身体にとって、電車と徒歩で片道30分の道のりは
県外に行くくらい長い距離に感じられました。
時間はもう一日の終わりが近く、私がこれから乗車する電車は
恐らく本日の最終電車になってしまうでしょう。
仕事をやり切り、自宅へ帰っても、労ってくれる人はいません。
冷え切った暗い部屋に帰るのかと思ったら、
足どりが重たくなったように感じました。
それでも何とか駅にたどり着き、
プラスチックの冷たい椅子に座って電車を待っていると、
「ちょっといいですか?」と声をかけられました。
とっさに「はい」と返事をしましたが、
あたりを見回しても声をかけた人は見当たりません。
疲れすぎて幻聴が聞こえた、きっとそうに違いない、と思いましたが
幻聴ではなかったのです。
「あの、すいません。椅子に座りたいので、荷物をよけていただけませんか?」
荷物とは、人がいないのをいい事に、
隣のイスのスペースをとっている私のカバンの事でしょう。
しかし、座りたいと声をかけてきた人は見当たりません。
そう、「ヒト」はね。
声をかけてきたのは、足元にいるネズミだったのです。
ネズミにとっては大きすぎるリュックを背負い、
帽子と、服と、靴まで身に着けていました。
私は驚いてしまい、身体が動かず、言葉も失い、
ただ、足元のネズミと見つめ合っていました。
すると、「あの~、言葉、通じてます?」と
ネズミが遠慮がちに聞いてきました。
私は疲れすぎていたのだと思いますし、
目の前にいるしゃべるネズミの存在に対し、
大きなリアクションをとる体力もなかったので
何となく、この状況をのみこむ事にしました。
「はい。通じていますよ。ちょっと驚いてしまって返事に困ってしまいました。」
そう私は返事を返し、カバンを自分の膝の上に置き、抱えました。
「無理もないですよ。大体の人はそういう反応をしますので、
お気になさらず。」
ネズミはそう言うと、椅子を支えている支柱をつたい、私の隣にやってきました。
服を着て、しゃべり歩くネズミは、目が青色で
近くで見れば見るほど、ファンタジーのような見た目です。
「どっこいしょ、っと」
ネズミは背負っていたリュックを下ろし、小さく一息つくと
私に話しかけてきました。
「あなたは、これからどちらへ?」
「自宅です。これから帰るところですよ。」
私は力のない声で答えました。
「そうなんですね。もう一日も終わるというのに、遅い時間まで大変でしたね。
人間は働きすぎるから、適度に力を抜いて仕事をするのが大事だ、なんて
僕の友達は言っていましたよ。」
ネズミはニコニコと穏やかな表情で、しゃべっています。
ニコニコとしゃべるネズミと雑談している私も
かなりシュールでファンタジーかもしれませんが、
自然と悪い気はしませんでした。
むしろ、気持ちが穏やかになっていくような気がして
不思議な気持ちになりました。
私はしゃべるネズミに興味がわいてきたので
今度はこちらから聞き返してみることにしました。
「あなたも、これからお帰りで?」
ネズミに自宅なんてあるのだろうか、と思いながら質問すると
ネズミは少し表情を曇らせて答えました。
「いえ。帰る場所はないので、出かけることにしたんです。」
「お出かけですか。いったい、どちらまで?」
「さぁね。これから決めるところです。」
ネズミは笑っているような、困っているような
微妙な表情でしゃべり続けます。
「ほら、僕って、少し変わっているでしょう。
服を着ないでおしゃべりをしなければ、ただのネズミに見えるけど
目が青いのだけはどう頑張っても隠せません。
家族と親せきと、合せて12匹くらいで一緒に暮らしてたんですけど
どうにもこの青い目がこわいと、言われまして。
住んでいた場所を、追い出されてしまったんです。」
私は相手がネズミであることも忘れ、同情してしまいました。
私も、もともと所属していた部署から異動させられたばかりでした。
希望を出して配属になり、好きな仕事でしたし、やりがいも感じていました。
でも、私の性格のせいか、仕事に手間取る事もありました。
きっとそれが気に食わなかったのだと思います。
目の前いるネズミのように、追い出されたも同然の扱いで
今も、虚しさと、どうにもならない悔しさを噛みしめています。
仕事に感じていたやりがいも、楽しさもなくし、
ただ目標もなく、目の前にある作業をこなしていくだけの日々の
なんとつまらないことでしょう。
私は自分とネズミの境遇を重ね、同情の言葉をかけようとしました。
しかしネズミは、私の喉元まで出かかった言葉を押しのけて
困ったように笑いながら、しゃべり続けます。
「最初こそ理不尽だと思ったし、悲しかったですけど、
今はそうは思いません。
他の誰かと違うところは、僕にしかない僕だけの個性です。
それを否定されるような場所にいる方が、よっぽどつらいと思いませんか?
だから、これで良かったのかなって思うようにしています。」
ネズミらしからぬ前向きな言葉に、若干戸惑いながらも
「そうですか」と私は返事を返しました。
「それに、家族以外のネズミで
僕の見た目に関係なく接してくれるネズミはいます。
あと、あなたみたいに関わりを持ってくれる変わった人間もいます。
だから、案外さみしい思いをせずに、楽しくやれていますよ。」
ネズミはふふっと笑いました。
私のような人間を、変わった人間と呼ぶネズミも
かなり変わっていると思いましたが
「変わり者同士、楽しくやれそうですね。」と
いつの間にか、笑い返していました。
もう、どのくらい話していたか、わかりませんが
駅のホームに電車の到着を知らせるアナウンスが鳴り響きました。
「では、私はそろそろ行きますね。」
私はネズミに声をかけ、椅子から立ち上がりました。
「では、僕も…」と、ネズミも立ち上がり
大きなリュックを背負いました。
「あなたのおかげで、電車を待っている時間が
とても楽しかったです。ありがとう。」
「いえいえ、こちらこそ、僕の他愛もない話を聞いてくださって
ありがとうございました。」
ネズミが帽子を脱ぎ、小さく会釈をしたので
慌てて私も会釈を返しました。
そして私は電車に乗り、扉が閉まる直前、ネズミに言いました。
「これからどこに行くにしても、大変ですね。お互い。」
ネズミは不思議そうな顔をしていました。
「お互い、ですか。」
ネズミが何か言ったようでしたが、電車のドアは閉まり
駅のホームを出発しました。
小さなネズミはあっという間に見えなくなりました。
自分の境遇の事など何一つ話していないのですから、不思議がられても無理はありません。
でも、私は、自分と同じような境遇のそいつに「独りじゃないぞ」と言いたかったのです。そして自分にも。
夢か、現実か、
あのネズミはどこへ行ったのかも、わかりません。
またいつか出会えたら、今度は私の他愛もない話も、してみたいものです。
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